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甲状腺がんは放射線の影響

甲状腺がんには地域差が認められなかったとする福島医大の大平論文のデタラメを検証・追及する研究会(勉強会)が14日(木)Zoomで開催された。
京都を中心に活動している『甲状腺被ばくの真相を明らかにする会』の会員が大平論文を検証した結論、大平論文とは真逆の結論となった為に大平論文に対する疑問、批判のレターを2度にわたりEpidemiology誌に投稿したがいずれもスペース不足を理由に掲載が拒否された。
また福島医大に直接公開質問しても『この件に関しては論文が掲載されたジャーナルにレターとして提出していただくのが適切であると考えています。』といった回答で科学者としての責任を果そうとしない。
小生は大平論文のデタラメについては以前から追及してきたが、今回多くの識者や市民に参加頂いた事で、問題追及が加速する事を期待したい。

昨日のZoomによる議論の結論は3つあると理解。
①福島医大(大平論文)に対する学術的な問題追及
②データ未公開(福島医大や福島県)、疫学学会や疫学専門誌Epidemiologyの体質や学術の有り方の問題追及
③政治やジャーナリスト等に訴える
今後の多くの裁判で闘う上でも大変重要な問題だ。2月23日には大々的なシンポジウムを開催する。

以下のブログは2016年の最初の論文に関し大平氏への公開質問と回答(2回目以降は無回答となった)に関する記事。
 
   【福島医大論文のデタラメ】
 
   【福島医大論文のデタラメ】
 
    【甲状腺がんに地域差はあった】
 
    【医大論文取り下げ要求】

以下は今回の研究会を主催した藤岡毅・大阪経済法科大学21世紀社会総合研究センター客員教授が経緯等を纏めた論考。(公開了解済)

【被害を隠蔽する政治に奉仕する科学——大平論文が意味するもの】

          大阪経済法科大学21世紀社会総合研究センター客員教授
          低線量被ばく問題研究会代表
                   藤岡 毅


1.大平論文が生まれた経緯とその背景

東電福島第一原発事故が発生して2ヶ月後の2011年5月、福島県は「県民健康管理調査」検討委員会を発足させた。原発事故による放射能の大量放出とそれによる健康影響の調査のために検討委員会が作られたにもかかわらず、設置要綱には「県民の健康不安の解消や長期にわたる健康管理の推進等を図ることを目的として」と書かれ、「健康不安の解消」が第一義的に掲げられた。検討委員会座長に就任した山下俊一長崎大教授は日本甲状腺学会など7学会に「A2」判定1保護者の再検査要求を断るようにとの要望を出し問題になった。

また、健康調査の結果を公表する前に「秘密会議」を開き、調査結果に対する「評価」の口裏合わせや議事録の改ざんなどが行われていたことが日野行介記者(毎日新聞)によって暴露された。検討委員会のこうした姿勢に社会的批判が高まった結果、設置要綱の「県民の健康不安の解消」の文言は削除され、「県民の健康状態を把握し、疾病の予防、早期発見、早期治療につなげ、もって、将来にわたる県民の健康維持、増進を図ることを目的として実施」と書き改められた。しかし、その後の経緯を見れば、「疾病の予防、早期発見、早期治療につなげ」ることと真逆のことが行われてきたというほかない。
(注1:甲状腺検査でのう胞/結節があるが、小さいため2次検査必要なしとの判定) 

<先行検査で見つかった甲状腺がん多発>
「県民健康調査」の柱の1つが事故後18歳以下の県民を対象とする超音波甲状腺検査である。チェルノブイリ原発事故の影響で多くの小児甲状腺がんが発症した事実に基づいて行われたことは明らかである。検査1巡目(先行検査)は2011年10月〜2014年3月までの期間に対象者37万のうち30万人が一次検査を受診し、116人が悪性及び悪性疑いのがん(129人/100万人・年)と判定された。それは甲状腺がん罹患統計から推定される有病数の数十倍のオーダーである。

検討委員会はこの事実を認めたにもかかわらず、チェルノブイリ原発事故と比べて被ばく線量が小さい、地域別の発見率に大きな差がないなどと主張して先行検査の結果を「放射線の影響とは考えにくい」とした(検討委員会「中間とりまとめ」2016年)。そして有病数の異常な多さの原因を「スクリーニング効果」や「過剰診断」に求めた。「スクリーニング効果」とは高性能な超音波機器によって一挙に多人数を検査したため通常なら見つかりにくいがんを前倒しで見つけてしまうことであり、「過剰診断」とは生涯発症しないがんを見つけてしまうことを言う。

<放射線の影響がより明確になった本格検査1回目>
しかし、2014年4月〜2016年3月まで行われた検査2巡目(本格検査1回目)は27万人受診し71人が悪性及び悪性疑いのがん(131人/100万人・年)で引き続き数十倍のオーダーの有病者数だった。2巡目の検査のため先行検査で「刈り取られている」はずの「スクリーニング効果」ではもはや説明がつかない。さらに悪性及び悪性疑いのがんと判定された子ども達のほとんどが手術を受け、手術を執刀した鈴木眞一医師は、発見された甲状腺がんはリンパ節転移や組織外への浸潤が進み進行度の早いものだったと語っているように「過剰診断」もありえない。

また、チェルノブイリと比べて福島の被ばく線量が少ないという言い分は、チェルノブイリ原発事故で線量が高く甲状腺がんが最多であったベラルーシのゴメル州の実効線量が3.65 mSvであったのに対し、福島県の福島市, 二本松市,郡山市の実効線量はそれぞれ4.26 mSv, 3.67 mSv, 3,11 mSv だったことを考えれば成り立たないことは明らかである。さらに重要なのは地域別の甲状腺がんの発見率の問題である。
福島県立医大の大平哲也氏らのグループは2016年の論文で先行検査の結果を外部被ばく線量に基づく地域分けで分析し、有病率に差がないと主張し「放射線の影響とは考えにくい」という「中間とりまとめ」の根拠の1つを提供した。(ただし、有病率に地域差がないというが、各地域の有病期間の違いを考慮すれば地域差がある。)

しかし、2巡目の検査結果を大平氏らの行った外部線量による地域分けに基づいて分析すると被ばく線量と発見率の間に正の相関があることが明らかになってきた。このことは検討委員会の第8回「甲状腺検査評価部会」(2017年11月)で公表された県立医大の県民健康管理センター作成の資料でも示された。しかし、第8回評価部会で鈴木元福島県立医大教授が部会長に就任し、それ以降の部会内部の議論の結果、2019年6月、第13回評価部会で2巡目検査結果に対する「部会まとめ」が作成された。「部会まとめ」ではこれまでの外部線量による地域分けの分析方法が放棄され、国連科学委員会(UNSCEAR)の推計甲状腺吸収線量を用いた分析によって「線量と甲状腺がんの発見率に明らかな関連はみられなかった」と結論づけた。

<放射線の影響なしで逃げ切った検討委員会>
「部会まとめ」は同年7月の検討委員会に提出され、鈴木部会長は「単純な地域の比較というやり方を変えた」として部会の結論を説明した。それに対し検討委員会の一部の委員は異議を唱えた。成井香苗委員は、地域分けで先行検査を検討し、それを「ベースライン」として「本格検査で、その差を見ていくことによって甲状腺に放射線の影響があるかないかを検討しましょうというのが方針だったはずです」と批判した。さらに、「会津が14.4人で避難区域の13市町村が53.1人ということは3.7倍もの差がある」「こんなに差があって」「放射線の影響は考えにくいという結論を出してしまうのは早すぎるのではないか」と迫った。

しかし、こうした真っ当な批判に答えることなく検討委員会は、「部会まとめ」をそのまま受け入れ、2巡目の検査結果に対し、「発見された甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連は認められない」と結論づけ任期満了で解散した。つまり、「検討委員会」は地域別発見率に差が出た本格検査の結果をごまかし、科学的論理性を無視して鈴木元氏の「部会まとめ」を楯に「放射線の影響なし」で強引に逃げ切ったのである。

2.科学論文の体裁でカモフラージュされた結論ありきの文書

「検討委員会」が「放射線の影響なし」と強弁してまもなく、大平哲也氏を筆頭とする福島県立医大のグループの論文が国際疫学専門誌Epidemiologyに掲載された。それは「検討委員会」や「評価部会」が評価を避けた2巡目の個人及び地域外部被ばく線量比較の問題をまさに扱い、論文の結論で「放射線量の地域差は福島の子どもたちの甲状腺がんリスクの増加とは関連していない」と言明した。つまりこの論文は「評価部会」の結論を「学術的」に補完するものであり、したがって強い政治的メッセージ性を持つものである。しかし、「明らかにする会」の公開質問状が示した通り、この論文の結論の根拠は極めて乏しく、論文が示したデーターから真逆の結論を統計的に導びくことができる。論文の考察では、あれこれの交絡要因やチェルノブイリ原発事故との違いなどを憶測も交えて書き連ねているだけで、えられたデーターの論理的分析によって結論に至る筋道は示されていない。それにもかかわらず結論だけはきっぱりと断定的である。

<水俣病事件を思い起こそう>
この論文を読んでいると、「水俣病」でおなじみの大衆を欺く常套手段=「科学論争が行われているかのような印象操作」を思い出す。水俣病の原因がチッソ水俣工場からの排水中に含まれるメチル水銀である可能性が高いことを熊本大医学部の研究班が突き止めていたのに対し、化学工業界の後ろ盾を得て「爆薬説」や「腐敗アミン説」などの異説が次々と打ち出され、水俣病の原因について学者間でも一致しない論争状態にあるという印象操作が行われた。その結果、工場排水の垂れ流しが継続され、水俣病の被害は拡大し続けた。大平論文は「爆薬説」や「腐敗アミン説」などと同じ役割を果たし、甲状腺がんに留まらない放射線被ばくによる健康被害が拡大していることを危惧する。

<まっとうな科学論争を避ける「たらい回し」の構造>
大平論文が疫学の国際専門誌Epidemiologyに掲載されたこと自体、放射線影響科学の政治への従属を思わせる事態である。まっとうな科学の議論なら、議論の基になるデーターは公開され、また科学論文への疑問や疑念は公開で討論されることが保証されるはずである。科学の結論への批判が自由に行われ、その批判に耐えうることによってその結論は「科学」たり得るのである。

しかし、明らかにする会の会員が大平論文に対する疑問、批判のレターを2度にわたりEpidemiology誌に投稿したがいずれもスペース不足を理由に掲載が拒否された。先行検査の結果分析により放射線の影響を示唆した津田論文を批判するレターは多数掲載したこととは対照的である。レターが掲載されないので著者本人に直接疑問への回答を求めたが、この県民健康調査に関連した論文への質問は著者が回答せず、県民健康管理センター広報室が質問に対し、「論文が掲載されたジャーナルにレターとして、提出していただくのが適切」と回答している。同センターはジャ-ナルに投稿しても回答が得られない事実を知らせた後も、依然として「レターとして提出が適切」と再度回答している。

「この「たらい回し」の構造は公正な科学の議論としてはありえないものである。スペース不足を理由に批判レターの掲載を拒否する専門ジャーナル、著者自身に返答させない、あるいは返答しなくてもよい口実を組織が準備し、福島県立医大の県民健康管理センターが前に出て学術的な議論はジャーナルへの投稿で、の一点で逃げ回る。
このような体制によって「守られる」科学論文とは一体なんなのか。ここで行われていることは「科学」を装った被害者切り捨ての政治である。放射線の健康影響は無視できると強弁し被害者切り捨てる政府の方針を学術的裏付けるための「御用論文」といって差し支えないだろう。科学に基づいて国民のために政策を立てるのではなく、被害者を切り捨てる政策のために科学が捻じ曲げられているのである。

3.公開質問状に賛同し、論文著者や県民健康管理センターへ回答を求めよう

公開質問状の内容を説明するために「明らかにする会」が開催した記者会見で、ある記者から「このような議論はまず学術雑誌に投稿して行うのがよいのでは?」との質問があった。たしかにそれが必要であることは論を待たない。しかし、批判レターは2度にわたって拒否されたことは上でも述べた。問題はジャーナリストも含めて、「科学の議論はまず学者間で決着をつけてもらって」というスタンスは、少なくとも放射線の健康影響科学に関する限りは通用しないことである。科学は「客観的」で最善の「相対的真理」を提供するものであるとは言えるだろう。

しかし、それは科学のルールが守られているという大前提の上での話である。ルールを守らないのは彼らはタカをくくっているからである。専門家でない人々(ジャーナリスト、弁護士、裁判官、文系研究者、被災者など含む)は権威ある専門誌への掲載や専門家の肩書きだけで信用し、議論の中身などわかっていないし気にもかけていないと考えているから、このようなルールの無視を平気で行うのだろう。彼らには思い知らせなければならない。専門家でなくても、事柄の筋道が理解できれば、細部はわからなくとも論理的に思考すれば、大平論文の結論がいかに根拠のないものか理解できるということを。公開質問状に一人でも多くの賛同をお願いしたい。

小児甲状腺がんの発生が放射線の影響であることをなぜこれほどまでに否定し続けるのか。ひとたび、放射線の影響によるがんの発生を認めてしまえば、甲状腺がん以外のがんについても同じ問題が生じる。さらに、がん以外の放射線の健康影響についても不可避的に懸念が拡大するだろう。小児甲状腺がんの問題は、放射線の健康影響を否定し続ける政府やそれを支える専門家に取ってまさに「蟻の一穴」なのである。だからといって真理を塞いで良いということにならないだろう。真理の探究と人権意識を失った科学は科学と社会の荒廃を招く。被害者に寄り添う科学こそこれから求められるものだ。

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