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NHKへの抗議と要請

NHKのニューウォッチ9が福島県内で行われている甲状腺がん検査に関して、「過剰診断」だと誤解を生むような放送に対して、市民・専門家で構成されている「甲状腺がんの真相を明らかにするか会」等が以下の抗議と要請を実施した。NHKには再検証し誤った放送を正す事を期待したい。


                  【抗議と要請】

2021年3月10日

日本放送協会 殿
ニュースウォッチ9担当者 殿

2021年2月25日のニュースウオッチ9の放送で福島県県民健康調査における甲状腺検査についての報道がありました。子どもの甲状腺がんが多発しているのは、治療の必要がない潜在がんを多く見つけてしまう過剰診断によるとしています(注1)。過剰診断を否定するコメントや放射線被ばくによる発症が示されていることは放映されていません。単に過剰診断の指摘を紹介しただけでなく、過剰診断であると主張したのに等しくなっています。真実を伝えるべき報道として調査が十分でないと考え、抗議します。

死後の病理解剖時に初めて見つかる甲状腺の潜在がん(ラテントがん)は成人でほとんどが2-3mm以下と小さく、子どもでは報告されていません(注2)。福島県の甲状腺検査で過剰診断が生じる根拠はないのです。

検討委員会に出された資料および鈴木眞一・福島県立医大教授の論文によると、手術施行された症例は腫瘍径:5-53mm、89%にリンパ節転移や被膜浸潤が認められ、遠隔転移は肺転移疑いが3例となっています(注3,4)。
これらは放置すると他に転移する危険があり、腫瘍径53mmの甲状腺がんは目視でも分かるほど進行したものです。診断の中心となっている鈴木眞一教授は「過剰診断を裏付ける術後病理結果は出ていない」と報告しています(注4)。

福島の甲状腺検査では5mm以下のものは二次検査の対象としていないので、2-3mmの潜在がんが例えあったとしても、甲状腺がんと判定されることはありません。さらに、5mmを超える場合も2次検査の精密な超音波検査で悪性を強く疑う場合のみ穿刺細胞診を行うなどの精査基準により、過剰診断を防ぐ対策がとられています(注4)。

小児も含めた若年者の甲状腺乳頭がんは、中年の乳頭がんにくらべて進行や再発を起こしやすいと報告されています(注5)。早期発見、早期治療が必要です。チェルノブイリ原発事故で甲状腺がんになったベラルーシの未成年を調べた研究によると、症状が出てから治療した人は肺に転移する割合が、症状が出る前に治療した人の2.6倍有意に高いことが報告されています(注6)。だから症状が出る前に、早期発見、早期治療することに重大な意義があるのです。

早期治療では、左右両方でなく片方の甲状腺切除で済むことが多く、甲状腺ホルモンを作り続けることができます。手術範囲が狭くて済み、生活の支障も少なくなります。甲状腺検査を受けずに、症状が出てから病院に行ったのでは、治療がより困難になります。
健康異常の早期発見は子どもたちの健康を守る上で大切なことです。NHKの報道で甲状腺検査を控えることがあれば、取り返しのつかない治療の遅れを招くことになります。

番組では、県民健康調査検討委員会が「放射線の影響とは考えにくい」としていることを過剰診断の理由にしています。実際には放射線の影響はあります。福島の小児甲状腺がんの発症率は個人の線量や地域の線量に相関しています。過剰診断説では発症率の被ばく線量依存性は説明できません。放射線被ばくによって発症したことが証明されたと言って過言ではありません(注7)。

上に示した私たちの抗議について真摯に受け止め、誤った報道を正されるように要望します。また、私たちの抗議内容について疑問の点がありましたらご連絡ください。お話し合いができれば幸甚です。

原発事故による甲状腺被ばくの真相を明らかにする会
代表 宗川吉汪

放射線被ばくを学習する会
代表 温品惇一



注1 番組では、冒頭から「この検査は、実は、本来治療の必要のないがんまで見つけてしまうという指摘があるのです」としています。さらに「甲状腺がんには、治療が必要なものがある一方で、症状が現れず、死に結び結びつくことはない潜在がんがあることが分かっています。過剰診断とは、たくさんの人を一斉に検査することで、治療の必要がない潜在がんを多く見つけてしまうことです」と述べています。

注2 環境省「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議 中間とりまとめ」
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/conf/tyuukanntorimatomeseigohyouhannei.pdf

注3 福島県立医科大学附属病院での手術症例について(第33回「県民健康調査」検討委員会・参考資料2)https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/303579.pdf 

注4 鈴木眞一 検診発見での甲状腺癌の取り扱い 手術の適応 内分泌甲状腺外会誌  https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesjsts/35/2/35_70/_pdf/-char/ja
(注3、4)2012 年 8 月から 2016 年 4 月までに手術施行された 125 例について、大半は乳頭がん、腫瘍径:5-53mm、腫瘍の部位:片葉 121 例(96.8%)、両葉 4 例(3.2%)、術後病理診断では、89%にリンパ節転移や被膜浸潤が認められ(リンパ節転移77.6%、気管周囲リンパ節転移60.8%)、遠隔転移は肺転移疑いが3例

注5 伊藤康弘ほか 小児乳頭癌の臨床 内分泌甲状腺外会誌 30 (4) 294-298, 2013
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesjsts/30/4/30_294/_pdf/-char/ja

注6  Demidchikら https://goo.gl/JGDcuW 

注7 福島甲状腺がんの真相を明らかにする2・23シンポジウム決議文

                【決議文】

本日、私たちは福島甲状腺がんの真相を明らかにするためにシンポジウムを開催し、以下の点を確認し決議する。
福島県民健康調査によって発見された小児甲状腺がんの顕著な多発は、本シンポジウムで示された疫学的検討からも、福島原発事故による放射線被ばくの影響であると考えざるをえない。

1. 福島県立医科大学県民健康調査グループは、甲状腺がんと外部被ばく線量との相関を否定し、肥満とは正の相関があるとする「エピデミオロジー論文」(Epidemiology、30巻、6号、2019年)の結論を撤回し、甲状腺がん増加への放射能の影響を否定できない旨の訂正をなすべきである。

2. 福島県健康調査検討委員会「甲状腺検査評価部会」は、「本格検査(検査2回目)に発見された甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連は認められない」とする「評価部会まとめ」(2019年6月)を直ちに撤回すべきである。

3. 検討委員会は、上の「評価部会まとめ」の承認を取り消し、本格検査(検査2回目)に発見された甲状腺がんと放射線被ばくとの関連を認めるべきである。

4. 県民健康調査「甲状腺検査」は継続されるべきである。検討委員会は、経過観察中に、ならびに県民健康調査以外で、甲状腺がんと判明した実数を把握し公表すべきである。また、事故当時成人であったもの、事故後誕生したものへの検査の拡大も検討すべきである。

5. 福島原発事故の加害者である政府と東京電力は、全ての被害者(被ばく者、避難者、生業を失った人など)に対して事故責任を認め、そのすべての被害を補償すべきである。

以上決議する。
2021年2月23日
福島甲状腺がんの真相を明らかにする2・23シンポジウム参加者一同


2の補足説明
福島医大のEpidemiology(エピデミオロジー、“疫学”の意)論文の結論は以下のようでした。
1. 個人外部被ばく線量と甲状腺がんの発生率とは関連しない。
2. 地域外部被ばく線量と甲状腺がんリスクの増加とは関連しない。
3. 肥満と甲状腺がんの発生率との間には正の相関があった。

「明らかにする会」は、論文に発表されているデータにもとづいて、内容を詳細に検討し、論文とは真逆の結論が導かれることを明らかにしました。
1. 個人外部被ばく線量に従って甲状腺がんの発生率は高くなった。
2. 地域外部被ばく線量が大きい地域で甲状腺がんのリスクが増加した。
3. 肥満と甲状腺がんの発生率との間には相関がなかった。
つまりEpidemiology論文の結論は誤りでした。この論文から、むしろ、福島小児甲状腺がんの発症と被ばくとの関連が証明されたのです。そこで「明らかにする会」は、論文著者に対して誤りを指摘した「公開質問状」を送りました。(2020年11月1日)未だに質問に対する回答がありません。

3の補足説明
本格検査(検査2回目)では、地域別の悪性ないし悪性疑いの発見率(10万人対)および先行検査からの検査間隔により調整した発見率(10万人年対)のいずれも、避難区域等13市町村、中通り、浜通り、会津地方の順に高く、被ばく線量や放射性セシウムによる土壌汚染と明らかに強い相関を示し、線量の増加に応じて甲状腺がんの発見率が上昇するといった一貫した関係が見出されました。放射性セシウムとヨウ素131などの放出・拡散がかなり一致していたためと思われます。

それにもかかわらず、「甲状腺検査評価部会」は、突然、4地域による解析を中止しました。国連科学委員会が推計した甲状腺吸収線量を持ち出し、線量の増加に応じて発見率が上昇するといった関係は認められないとする結論を出したのです。国連科学委員会の推計は放射性ヨウ素の沈着・吸入・経口摂取の評価が不十分です。

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