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甲状腺がん多発は放射能の影響

原発事故後に甲状腺がんに罹患した6名が東電相手に訴訟を起こした。たんぽぽ舎のメルマガから、本件に関する記事を掲載する。

◆甲状腺がん裁判勝利のために
                   小児科医 山田 真

2022年1月27日は歴史的な日であった。福島県に住み、福島東京電力原発事故以後に甲状腺がんになった若者(2011年当時18歳以下) 6人が、東京電力に賠償責任を求めて提訴したのだ。
わたしは2011年以来、こうした「健康被害に対して国や東京電力に責任を取らせるための裁判」を心待ちにしてきた。
しかしこれまで数々の医療裁判にかかわってきた私は医療裁判のむつかしさを身に染みて知っているだけに、健康被害を受けた人たちには裁判することを勧められないでいた。

だが今回勇気ある若者たちが提訴してくれたおかげで原発事故以後東京電力と国が犯した罪を明らかにできる端緒が得られたというべきで、わたしたちは全力で応援しなければならない。何としても勝たねばならない裁判なのだ。
そこで今、医療裁判はなぜむずかしいのかを説明しておこう。この国の医療裁判では一般に原告側が因果関係の証明をしなければならないことが多い。最近わたしが相談を受けた一例を挙げよう。

昨年11月に4か月の赤ちゃんが亡くなった。前日に4種類の予防接種を受けており、翌朝お母さんが目を覚ました時、赤ちゃんは亡くなっていた。解剖の結果、赤ちゃんのからだになんの異常も見られなかった。
解剖した医師は「突然死」だと言う。このケースで両親が予防接種事故として裁判を起こした場合、両親の側は赤ちゃんの死亡の原因が突然死ではなく予防接種であることを証明することを求められる。それは簡単そうに見えるが実は容易ではない。というよりむしろ無理なことなのだ。

脳研究者である池谷裕二氏は著書の中で次のように書いている。「私がとくに強調したいことは、サイエンス、とくに実験科学が証明できることは『相関関係』だけだと言うことです。因果関係は絶対に証明できません。『いやいや、私は因果関係も証明できるぞ』という立場の人いますか?もしいたら徹底的に私と議論しましょう」
  (「単純な脳、複雑な『私』」) (講談社ブルーバックス)

今回の甲状腺がん被害者裁判では、福島の若者での甲状腺がん多発と放射線との因果関係を証明することが必要になるように思われるが、東京電力側は放射線以外の原因をいろいろ挙げて対抗してくるだろう。

その時原告側が放射線との因果関係を高度の蓋然性で証明する事は思いのほか難しいのである。本来は東京電力の側が原告の甲状腺がんが放射線と関係ないことを高度の蓋然性で証明しなければならないはずで、それが立証できなければ放射線と関係ありと認めることになるが、この国の司法は加害者側に立つことが多いのでこの形を取ったとしても予断を許さない。

ところで現在、私たちが全力で応援して勝たねばならない原発による医療被害を裁くもう一つの裁判が進行中である。「あらかぶさん裁判」という。あらかぶさんは42才の男性で、2011年当時、北九州市で鍛治工として働いていたが、福島原発事故を知り、10月に福島へボランティア的におもむいた。

そして福島第二原発の収束作業に従事し、その後2013年12月までの2年間、玄海原発、福島第一原発で働いた。そして2014年1月急性骨髄性白血病と診断される。
この発病は「福島原発でのずさんな被ばく管理のもとで事故収束作業に従事したため」として労災申請したところ、2015年10月に労災認定された。労災認定されたということは放射線により白血病になったという関連性が明確になったわけで加害者である東京電力、九州電力の責任を問う裁判を始めたわけだ。

しかし驚くべきことに、東電、九電の側は「労災が認められたといって放射線との因果関係が証明されたわけではない」とし、あらかぶさんの記録された被曝線量が100ミリシーベルト以下なので白血病にはならないなどとエビデンスなど全くない論説で反論している。

さらに放射線の発がんリスクは100ミリシーベルトから200ミリシーベルトをあびた時、あびない人の1.08倍であるのに対し、野菜不足の発癌リスクは1.06倍、大量飲酒の発がんリスクは1.4倍であるとして、あらかぶさんの白血病発病の原因はむしろ飲酒、野菜不足と考える方がよいなどと言っている。(ここでふれておくが現在学校で行われているがん教育では、「がんは一種の生活習慣病」という扱いになっていて、肥満、やせすぎ、飲酒、野菜不足、運動不足などが挙げられ、アスベストや放射線など環境因子にはふれられていない。子どもたちがこのようながん教育を受けていることもこの際知っておいてほしい。)

白血病の患者さんを前にして「あなたの白血病の原因は野菜不足だ」などと言う医者はいないと思うが、裁判でこんなひどい主張がされ、わたしの個人的な経験ではこうした主張がしばしば認められてしまうのがこの国の裁判の現状である。

今回の甲状腺がん裁判でも、国が「福島原発事故では健康被害はなかった」と最初から予断を持った宣伝をし事実を隠すために健康調査をほとんど行わなかったことを利用して東電側がひどい論理で甲状腺がんと放射線の因果関係を否定してくることが考えられる。
わたしたち市民は裁判所、東電の動向を監視しつつ応援に立ち上がる必要がある。今回、立ち上がった6人を全力で支えることが私たちの義務と言うべきだ。

わたしは1月27日にこの裁判を応援する応援医師団を立ち上げた。今、あちこちで応援の声が大きな声で発言され、この裁判の勝利のため全力で支えることを市民のみなさんに呼びかける。
(『救援』第635号2022年3月10日「救援連絡センター」発行より転載)


◆「甲状腺がん多発は原発事故が原因。因果関係は立証されている」
  津田敏秀教授インタビュー 聞き手:本田雅和
中見出し・小見出しの紹介
 ◎「病気の多発が因果関係そのもの」
  ・「直ちに影響はない」?
  ・「放射線は発がん物質」
 
 ◎「著しい倍率上昇は認めながら因果関係には否定的」
  ・「暴露なし集団との比較」
  ・「恣意的な情報開示」
 
 ◎「内部被曝量が大きな影響を与えたことが判明」
  ・「補正でチェルノブイリに酷似」
  ・「過剰診断なら医療過誤」
     (『週間金曜日』2022.3.25「15から21頁」より抜粋)

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