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UNSCEAR2020/2021報告書に日本側はどう関与したか・完全編(前半)

はじめに

国連科学委員会(UNSCEAR)は2021年3月に『UNSCEAR2020/2021報告書』を発表した。「放射線被ばくが直接の原因となる健康影響(例えば発がん)が将来的に見られる可能性は低い」との日本語のプレスリリース[1]を発表し、メディアや国民を意図的にミスリードした。英語の本文とは大きな齟齬があるものだった。
この報告書は、日本人は日頃から昆布を食べているからとして、甲状腺等価線量係数を西洋人(ICRP基準値)の1/2にし、長時間屋内に留まった場合の屋内退避効果はほとんど無いにもかかわらず、屋内での吸入被ばく線量を1/2にした。

更に特に3月15日、16日の大量のプルーム(ヨウ素等)の沈着量や沈着速度を改ざんし、更に避難区域住民は3月15日までに全員避難完了したとして、吸入摂取内部被ばくを3桁程度過小化した。更にUNSCEARは野菜や生乳が出荷停止になる3月23日までの11日間の野菜等からの経口摂取を無視するなど(注5)、あらゆる手段で内部被ばく線量の矮小化を図り、内部被ばく線量値をUNSCEAR2013報告書からも劇的(注1)に引き下げ、より現実的な線量推定を実施したとしている。


注1:約1/70に矮小化との加藤氏、山田氏の論文[2]もある。UNSCEAR(40の避難シナリオ)が3月15日までには避難完了したとされた避難区域住民は、必ずしも全員避難したわけではなく、また避難途中に高線量地域に駐車した車内で過ごした住民も多い。高線量の浪江町津島住民は3月16日までには全員避難していない可能性が大きい。


1.日本政府はどう関与したか
1-1.報告書作成までの経緯

首相官邸HPの『UNSCEARの功績と日本の貢献』[3]にはアンスケアー報告書の作成経過が以下の如く記述されている。 (  )内は筆者追記。
1)年次会合で課題を決定(2011年5月国連総会で「福島の原発事故調査レポート」作成を承認)
2)世界中の調査研究資料(主に論文)を収集・整理・評価
  (明石眞言氏 ら5名の日本作業グループが大きく関与)  
3)指名されたコンサルタント(専門家グループ)と事務局が報告書草案を作成
4)加盟各国にコメントを求める(27加盟国、オブザーバ:4ヶ国、11機関) 
 (日本では明石眞言氏はじめ旧放射線医学総合研究所(旧放医研)主体のメンバーや甲状腺評価部会長の鈴木元氏ら18名で構成された国内対応委員会が対応)
5)年次会合でさらに精査
 (第66回:2019年11月、第67回:2020年11月に開催)
6)報告書最終案を取りまとめ
 (2020年11月開催の第67回会合で承認。21年3月に日本語のプレスを発表。日本からの会合参加者、特に明石氏らが大きく関与)


 このうち、4)のコメント作成に当たっては、18人の委員と100人近いコメンテーターで「アンスケアー国内対応委員会」を組織して報告書草案を精査し、アンスケアー事務局に対し、コメントや必要な追加情報を提供して支援しています。この国内対応委員会の事務局は、放射線医学総合研究所(注2)に置かれています。とHPにある。原発事故4か月後に政府が立ち上げた。

注2:現在は量子科学技術研究開発機構。以後は当時の組織である『旧放医研』と記す。
1-2.外務省からの特別拠出金
一方で、外務省は『放射線の影響に関する過度の不安を払拭すべく、国内外への客観的な情報発信を促進する』報告書作成目的でUNSCEARに2013年度に約7100万円の資金を提供。2017年度には改訂版作成の為、新たに7000万円拠出している[4]。以下は外務省のHPから一部転記したものである。

1)事業の目的:
    放射線の影響に関する過度の不安を払拭すべく、国内外への客観的な情報発信を促進   
2)拠出金額:1.41億円
   ①2013年度:7100万円、②2017年度:7000万円(改訂版作成)
3)資金の流れ:
   外務省→UNSCEAR→事務局職員の人件費及び査読を行う外部専門家への謝礼(注3
4)合意文書:
   使途を福島第一原発事故の放射線影響評価活動に限定
5)外務省による事業の自己評価: 
   評価が客観的であると国際的に認められている機関は他になく、国内外の客観的な情報発信には非常に効果的

注3:被災者たちが日本政府や東電を訴えた裁判で、日本政府の拠出金(国民の税金)によって作成された(作為的な?)報告書を「中立」「国際的に権威ある」「科学的知見」として日本政府の弁護・擁護に使っていることになる。これでは公正・中立に査読が実施されているのか甚だ疑問。
 
2.国内対応委員会はどう関与したか

その裏で旧放医研主体の「国内対応委員会」やUNSCEAR内の「日本作業グループ」がどう関与し、更に甲状腺評価部会長の鈴木元氏(国際医療福祉大学)や元放医研理事でUNSCEAR日本代表の明石眞言氏が被ばく線量の矮小化にどのように関与したかを、UNSCEARへの公開質問や旧放医研への情報公開請求した結果、一部明らかとなった。


2-1.国内対応委員会の位置づけ(首相官邸のHPより抜粋)[5]
・UNSCEAR事務局らが作成した報告書草案に対するコメントが各国に求められる。
・文部科学省や原子力安全委員会事務局などの支援のもとに、18人の委員で「UNSCEAR国内対応委員会」を組織(他に100人近いコメンテータ)
・UNSCEAR報告書草案を精査し、UNSCEAR事務局にコメントや必要な追加情報を提供
・事務局は放射線医学総合研究所(旧放医研)

2-2国内対応委員会メンバー
 国内対応委員は以下の18名とオブザーバにより構成。(注4)
①旧放医研のメンバー:明石眞言氏、中野隆史氏、事務局の神田玲子氏らの3名含め計8名
②それ以外のメンバー:放影研(小笹晃太郎氏)、電中研、JAEA、長瀬ランダウエア、東京医療保健大(伴信彦氏)、国際医療福祉大(鈴木元氏)、広島大、京都大、近畿大、久留米大

③オブザーバ:文科省、原子力規制庁、環境省4名、外務省

 注4:情報公開請求した議事録による。旧放医研の部長級以上以外は黒塗りで詳細不明の為、( )内は筆者による想定も含む。

  尚、この委員選定は議事録等から類推すると旧放医研の明石氏に一任されたようだ。
2-3.国内対応委員会の関与 
(情報公開請求で入手。内容は一部黒塗り)
 UNSCEAR67回会合直前の国内対応委員会の活動を簡単に記す。
①  2020年5月4日~6月19日          
  :第28回日本国内対応委員会(オンライン)開催。
②  2020年6月22日
 :UNSCEAR67回会合の草案に関する日本側のコメント案をまとめ、6月2日にUNSCEAR事務局に送付。日本からのコメントがUNSCEAR第67回会合でほぼ通ったとみてよい。
③   2020年10月12日:第29回国内対応委員会
④2020年11月2日~6日 :UNSCEAR67回会合(オンライン)
 
67回会合の直前に開催された、第29回国内対応委員会の議事録の骨子が以下である。

1) 福島報告書の改定について事務局より説明
 ・2019年までに受理された論文等のレビューが行われており、第67回会合にて承認を目指す予定。
 ・福島フォローアッププロジェクトのSenior technical advisorは明石前代表、放影研から1名、量研(旧放医研)から3名が作業実施
 ・量研(旧放医研)から1名UNSCEAR事務局に派遣
 ・新しい報告書では、改定された放出量や沈着量のデータ、個人 線量や空間線量のデータを使用。(注5)
 ・日本人のヨウ素吸着率(1/2)や屋内における空気中放射性核種のフィルター効果(1/2)などを考慮し、より現実的な線量推定実施。(注5)
・外部被ばく線量は若干上昇、内部被ばく線量は劇的に減少。
・健康影響については2013年報告書の見解は引き続き有効。
・14か国から728件のコメント、63件のコメントの技術的検討が行われ、クリティカルなコメントは無かった。


2)UNSCEAR 67回会合の審査予定のドラフトに対するコメントを10月16日まで提出するよう委員に依頼
3) アウトリーチ活動は2021年5月に予定 
  (実際には何度も延期され2022年7月に東京や福島で実施)
4) 国連総会議長への説明(2020年10月に実施) 
  各国代表への説明(2020年12月に実施)


注5:
①この改定されたデータや現実的な線量推定値は、大量のプルームによる吸入摂取や野菜等からの経 口摂取内部被ばくを矮小化した結果、内部被ばく線量は劇的に減少。3月15~16日にかけての大量のプルームの沈着量や沈着速度から推定すると、避難が遅れた住民は吸入摂取による甲状腺等価線量が大阪大医学部本行名誉教授からは、2桁以上矮小化されている可能性も示唆されている。

②飯館村の避難所閉鎖は3月18日。大量のプルームが流れたのは15日~16日。飯館村の避難所に避難していた住民や飯館村民は大量の内部被ばくしている可能性が大きい。国やUNSCEARが避難区域住民は15日までに全員避難完了しているから内部被ばくが無かったとの歪曲は、事実に反している事が明らかとなった。
③UNSCEA報告書のパラグラフ「153」と付属資料 の「A8 2」に 「避難前や避難途中に食べ物 による線量は無視できる」とある 。しかし、東京新聞こちら特報部(2021年4月5付け)によると、浪江町津島地区には避難途中の町民八千人が立ち寄った。津島地区内のIさんが「露地栽培の野菜を炊き出し用に持ち寄った。」と証言。

 従い、UNSCEAR2020/2021報告書草案に対する各国からクリティカルなコメントは無かった事からも、鈴木氏や明石氏らが国内対応委員会事務局にまとめさせた日本案がほぼ通ったと見て良い。この委員構成からも旧放医研の事務局を傘下にしている明石氏が鈴木氏と組んで、UNSCEAR報告書を恣意的に矮小化している構図がうかがえる。


3.UNSCEAR2020/2021報告書作成の構成メンバー
1)調整専門家グループ(上級技術顧問):明石氏ら英国、ドイツから3名
2)専門家グループ(執筆者):ドイツ、英国(3名)、オーストラリア、フランス、ロシア(バロノフ氏)、ノルウェー、米国等から9名

3)公衆被ばくタスクグループ:フランス、米国、ロシア、ウクライナ等から5名。オブザーバとしてIAEAと日本
4)大気拡散タスクグループ:日本4名(注6)、ドイツ、フランス(2名)、英国(2名)から9名
  注6:森口氏(元東大)、赤羽氏(旧放医研)、茅野氏(JAEA)、永井氏(JAEA)

5)日本作業グループ (日本の論文やデータ収集提供し、技術的アドバイス実施:旧放医研:明石眞言、赤羽惠一、青野辰雄(福島再生支援研究所)、JAEA:茅野政道(理事)、放影研:小笹晃太郎(ICRP委員)
6)批判的査読者:ドイツ、米国、フランス、英国等から13名
7)その他の寄与専門家:オーストラリア、ドイツ、ノルウェー等6名
 
4.UNSCEAR第67回会合(最終報告書決定会合)
(2020年11月2日~6日にオンラインにて開催)


4-1.日本からの参加者
日本からは明石氏、神田氏、中野氏、他旧放医研から4名、放影研1名、広島大1名の合計9名が参加している。この会合は3つの作業グループ部会に分かれて議論された。その一つの『東日本大震災後の原子力事故による放射線被ばくのレベルと影響に関するUNSCEAR2013年報告書刊行後の進展』の部会には明石氏と、他に旧放医研から2名の計3名の参加であった。

1)2020年11月2日~6日に開催
2)2020/2021報告書[6]の最終的な決定の場
3)日本からは旧放医研の7名含め以下の9名が参加(合計220名)
  ①旧放医研 :中野隆史、明石眞言、神田玲子、他4名
  ②放影研   :1名(たぶん小笹晃太郎)
  ③広島大   :1名
          計9名参加

4)参加者は3つの分科会を分担
5)福島事故関連分科会は明石氏と旧放医研の2名が担当(注7)
注7:明石氏や鈴木氏らが中心となって纏めた日本案がUNSCEAR事務局に提案。内外の3つのポジッションにある明石氏の思惑を報告書に反映させる事は容易。
4-2 議事概要
   議長はオーストラリアのハース氏(執筆者でパブリック・ミーティングにも来日)。
議事内容は直前に開催された第30回国内対応委員会で報告された内容とほぼ同じであり、日本の提案がほぼ通ったと見て良い。
・1600以上の文献から500件程度が検討された。
・文献に加え改定されたソースターム(JAEAのデータ)と土壌サンプリ
 ングデータ(特に放射性ヨウ素)、モニタリングデータ(楢葉町、南相馬市の個人線量データなど)が再評価に使用された。

・改定された放出量や沈着量のデータ、個人線量や空間線量のデータを用いた。(注1、注5)
・日本人のヨウ素吸収率や国内における空気中放射性核種のフィルター効果を考慮し、より現実的な線量評価を実施。(注1、注5)

・外部被ばく線量は若干上昇し、内部被ばく線量は劇的に減少。
・健康影響は2013年報告書の見解は引き続き有効。 

5.日本作業グループはどう関与したか
 一方UNSCEAR内に設置された「日本作業グループ」のメンバーは5人で、旧放医研の明石氏、赤羽氏、青野氏とJAEAの茅野氏、放影研の小笹氏である。日本人作業グループはレポートを直接執筆はしていないが、詳細分析や情報提供に強く関与し、特に日本からの論文や情報を執筆者である専門家グループに提供し、提言を行う事がミッションである。恣意的な論文選択は可能であった。(注8)
 注8:甲状腺がんの多発は放射線の影響であるとした津田論文や加藤論文等は問題があるとして評価の対象から外された。

5-1.明石眞言氏の関与
 明石氏はUNSCEAR内の調整専門家グループ(全体の統括)及び日本作業グループと国内対応委員と3つのポジッションを兼務しており、UNSCEARの内外から被ばく線量を小さく見せるような論文や、鈴木元氏の線量矮小化論文を優先して取り上げ、執筆者の専門家グループに提供し、被ばく線量の矮小化に誘導する事は容易な立場であった。(注8)

5-2.鈴木元氏の関与
鈴木元氏は国内対応委員で、現在は甲状腺評価部会長である。更に鈴木氏が書いた避難地域住民の被ばく線量値を矮小化し纏めた『40の避難シナリオ』論文をUNSCEARは全面的に採用している。
2022年7月21日にいわき市で開催されたパブリック・ミーティングで執筆者の一人であるバロノフ氏が、日本人の甲状腺への取り込み率を1/2にしたのは鈴木氏の提言を採用したものだったと暴露した。この暴露で鈴木氏の強い関与が実証された。
更に、屋内退避による吸入被ばくの線量低減係数が 、2013年報告では 福島県民全員が寒空の中、屋外にいたという評価になっていた。それを 50%の屋内退避効果があるとして再評価し、被ばく線量値を1/2にした。
 屋内退避効果を1/2にした理由や背景について、あるNPOが開催した研究会でJAEAの講演者N氏へ質問をぶつけてみた。後日以下のような回答がメールで届いた。
 「屋内退避による吸入の低減効果0.5は、H君(JAEA)の実験データに基づきUNSCAERが決定したものであり、正確には、H君の実験データに基づき、鈴木元先生がばらつき(0.1から1)の中央値として用いたものを、UNSCEARが採用したのです。」
しかも、屋内退避後プルーム過ぎ去っても窓を閉じたままであると、プルームが室内に滞留し、長時間内部被ばくを続ける事になり、屋内退避効果はまったくない事が名古屋大学の山澤教授の資料から明らかになった。
この回答からも、鈴木元氏が内部被ばく線量を低減する事に、決定的な影響を与えていた事が判明した。

5-3.原発事故当時の明石氏と鈴木氏の不作為・問題行動
原発事故当時の両氏の不作為・問題行動は以下の通り。
①明石眞言氏:
 ・放射線の影響は少ないとして、1080人以外のスクリーニング調査を止めるべき、疫学調査は不要と政府に進言[7]。(注9)被ばくの実態が分からなくしてしまった。 
 ・更にスクリーニングの基準を1.3万cpmから10万cpmに認めるよう国に依頼。
 (後日、東京新聞・榊原記者の取材でこの文書の非を認めている[8])

注9:東京新聞「こちら特報部」(2019.2.4)によると『放医研は甲状腺測定を早く始めるよう  国に促す立場。オフサイトにいた保田氏の「甲状腺被ばくは深刻なレベル」と、早期対応を放医研に求めたが「所内でコンセンサスが取れていないので保留するように明石センター長から指示があった」と返事』。明石氏の背信行為は明らか。

②鈴木氏元氏:
 ・ヨウ素剤配布の失態。
 ・スクリーニング基準作成に関与。

  明石氏と鈴木氏は過去同じ時期に放医研に在籍し、共同研究論文も多数存在する。自分達の不作為の責任逃れの為にも、住民の被ばくの影響を小さく見せたいという二人の思惑は一致している。
  日本作業グループが提供した都合のよい論文やデータをもとに、執筆者(専門家グループ)が公正・中立に議論したとしても、もともと偏った論文やデータでの議論では結論が偏る事は明らかで、UNSCEARの公正・中立性とする説得性には欠ける。執筆する専門家グループは日本作業グループや国内対応委員会の偏向した情報を容易に受け入れている。


 後半へ続く(以下↓ご覧ください)
https://nimosaku.blog.ss-blog.jp/2023-02-13





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