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福島県・検討委員会/評価部会へ「要望書」提出

UNSCEAR2020/21レポート検証ネットワークは福島県の「県民健康調査」検討委員会と甲状腺評価部会に以下の要望書を提出した。委員会は3月20日と22日にそれぞれ開催される。


        【要望書】

「県民健康調査」検討委員会各位殿       2023 年 3 月 13 日
甲状腺評価部会各位殿
 福島県・県民健康調査課・佐藤課長殿
 福島医大・県民健康管理センター・神谷センター長殿、各部門長殿



皆様の日頃のご尽力に感謝申し上げます。

私たちは、福島原発事故後、県民健康調査甲状腺検査で1巡目、2巡目とも全国がん登録から推計される有病率の数十倍のオーダーで小児青年甲状腺がんが多発した事実を憂慮し、それが放射線被曝によるのか否かに重大な関心を持つ科学者、研究者の集まりです。
国際誌に発表した最新論文 (Tsuda et al.(2022)1、Kato & Yamada(2022)2)の成果をふまえ、3月 3 日に福島大学でシンポジウムを共同開催しました。
「県民健康調査」検討委員会設置要綱には「県民の健康状態を把握し、疾病の予防、早期発見、早期治療につなげ、もって、将来にわたる県民の健康の維持、増進を図ることを目的として」検討委員会が設置された旨が書かれています。

しかし、事故から 12 年を経る現在に至ってもいまだに検討委員会や評価部会は甲状腺がんの多発と原発事故との因果関係は認められないとし、その結果、300 名を超える若い甲状腺がん患者に有効な救済措置も取られず放置され続けています。

3 月 3 日の福島大シンポジウムでは、「放射線の影響とは考えられない」とする根拠となっているUNSCEAR2020/2021 レポートや日本疫学会誌 Journal of Epidemiology の『福島特集号』を検証し、それらの誤りを指摘し、放射線の影響であることを示す科学的エビデンスを提示しました。

1.Tsuda, Miyano & Yamamoto(2022):Environmental Health,21:77
タイトル日本語訳「疫学的手法の誤用検出ツールキットによって福島原発事故後に現れた科学と保健政策の土台を脅かす侵食活動を実証する」日本語訳資料あり https://x.gd/FQChm

2. Kato & Yamada(2022):Clinical Oncology Research に発表した 2 論⽂タイトル⽇本語訳
★「福島における⼩児・思春期甲状腺がんの個⼈線量依存性と放射線被ばく起因性」
★「同 II チェルノブイリ並み I-131 被ばくによる福島甲状腺がんの多発」
3 .3 ⽉ 3 ⽇福島⼤学でのシンポジウム「被曝による甲状腺がん多発を否定する 2 つの報告書̶その検証と健康被害の実情を考える」の映像,資料はこちらに公開
 
記最新論文 (Tsuda et al.(2022)、Kato & Yamada(2022))を含む科学的エビデンスは、UNSCEAR レポートや日本疫学会会誌の『福島特集号』とは正反対といえる結論を示しています。

検討委員会委員や評価部会部会員の皆さま。是非ともこれら科学的エビデンスから示される、以下の論点を 3 月 20 日の評価部会、3 月 22 日の検討委員会で議論していただき、「放射線の影響とは考えられない」とする根拠を見直して、原発事故と甲状腺がん多発との因果関係をあいまいにせず、明確にしていただくよう要望いたします。

ご検討・ご回答いただきたい大論点は以下の 3 点です。
(1)科学的エビデンスが否定する UNSCEAR2020/2021 報告書に今後も固執し続けるのでしょうか 
(2)甲状腺検査評価部会、「県民健康調査」検討委員会では、国際誌に出版された Tsuda et al.(2022)、Kato & Yamada(2022)を含む新事実をとりいれた独自の検証はしないのでしょうか 
(3)被害救済をしない理由に過剰診断論を用いるのでしょうか 


甲状腺がん患者にこれ以上の苦しみを続けさせるわけにはいきません。原発事故と甲状腺がんの因果関係を認めることは、被害の拡大を防ぐために重要であり、甲状腺がんになった被害者の公的救済にも必要不可欠です。また前提として、甲状腺がんの早期発見、早期治療につながる甲状腺検査の維持・拡大は必須です。

上記に加え、以下に検証・再検討を要請する具体的項目を示し、速やかな検討の実施を強く要望いたします。

〈検討を要請する具体的論点と科学的エビデンス〉
(資料1〜5はシンポジウム報告サイト
http://natureflow.web.fc2.com/HP/indexa.html に掲載)


1. 「県民健康調査」検討委員会や同委員会甲状腺検査評価部会は数十倍の多発を認めているにもかかわらず、いまだに放射線被ばくと甲状腺がんの因果関係を認めていません。疫学による因果推論の専門家が公衆衛生の見地に立って早期から警告を発しているにもかかわらず時間が無駄に浪費されています。早急に因果関係を認め、被害拡大を防ぐための対策の検討を要望します。別紙、津田敏秀・岡山大学大学院教授による要望書とともにご検討ください。
(エビデンス資料1:http://natureflow.web.fc2.com/HP/slide/230303Tsuda.pdf 参照)

2. 検討委員会報告の 4 地域で、1 巡目 2 巡目とも年間発生率が UNSCEAR2020/21 推定の甲状腺吸収線量(各市町村の平均値)に比例して増え、統計的に有意な量・反応関係が成立しています。甲状腺がんの多発は被ばく影響であり、過剰診断でないことが UNSCEAR 推定値を用いても示された事実の検討を要望します。
(エビデンス資料2:http://natureflow.web.fc2.com/HP/slide/230303Kato.pdf 参照)

津⽥敏秀:UNSCEAR2020/2021 報告書・医学関係の問題点に関する簡略解説第 3.1 版は,こちらからダウンロードできます。https://x.gd/VHEXK


3. 被ばく由来の甲状腺がんは、主に放射性ヨウ素の甲状腺への取り込みによって生じます。原発事故後数週間内に 35 万人の甲状腺直接測定が行われたチェルノブイリ事故の甲状腺線量と甲状腺がん年間発生率の相関関係は信頼性が高いと言えます。それに福島原発事故後の甲状腺がん年間発生率を当てはめると、福島の甲状腺線量は UNSCEAR の推定値の約 70 倍と推定されます。つまり、UNSCEAR 報告の甲状腺線量の推定値は数十分の一に過小評価されていると考えられる点の再検証を要望します。
(エビデンス資料2:http://natureflow.web.fc2.com/HP/slide/230303Kato.pdf 参照)

4. UNSCEAR が線量推定を行う上で全面的に依拠していた大気中濃度の輸送と拡散、沈着モデル(ATDM)に関する論文(Terada 論文 2020)が 3 月 15 日から 16 日にかけて福島第一原発から北西 60 km に位置する福島市を襲った最大のプルームを捉えることができていなかったことが加速器物理学の研究者の分析によって判明しました。このプルームがもたらしたヨウ素 131 の大気中濃度は 1/100程度に過小評価されていると見積もられます。

この結果は項目3とも一致し、UNSCEAR の甲状腺線量推定値の二桁以上の過小評価をさらに裏付けるものです。この事実からも「被ばく量が少ないので甲状腺がん多発は被ばくが原因とは考えにくい」とするこれまでの見解の再検討を要望します。
(エビデンス資料3:http://natureflow.web.fc2.com/HP/slide/230303Kurokawa.pdf 参照)

5. UNSCEAR 2020/21 報告は 2013 報告に比べ、甲状腺等価線量係数を日本人はヨウ素摂取が多いからと ICRP 基準値の 1/2 に、屋内退避効果はほとんどないにも関わらず 1/2 に、そして、経口摂取被ばくはほぼ無かったことにし、吸入被ばく推定値も大幅に下げ、 甲状腺の平均推定吸収線量を一桁以上減らしています。これも項目3を裏付ける根拠です。
この事実からも「被ばく量が少ないので甲状腺がん多発被ばくが原因とは考えにくい」とするこれまでの見解の再検討を要望します。
(エビデンス資料4:http://natureflow.web.fc2.com/HP/slide/230303Hongyo.pdf 参照)

6. 検討委員会や評価部会には、甲状腺がん多発の原因として、過剰診断説に固執する方がいます。そして、甲状腺検査の縮小の議論すらあります。しかし、甲状腺がんを宣告され、苦しい手術や治療に耐え頑張っている若い患者たちに向かってがんは過剰診断にすぎず手術など必要なかったと言えますか。彼らの声に真剣に耳を傾けるべきです。甲状腺検査が早期発見、早期治療に役立っている証拠もあります。検査の維持・拡充はもちろん、甲状腺がん患者への公的な救済を要望します。
(エビデンス資料5:http://natureflow.web.fc2.com/HP/slide/230303Sakiyama.pdf 参照)

7. 国際シンポの志村氏の講演でも取り上げられ、昨夏の評価部会、検討委員会で発表されていた症例対照研究では、FHMS 推定の個人の甲状腺線量が使われています。基本調査のように市町村別に、平均値と線量区分別の%を公表することを要望します。また、症例対照研究では、95%信頼区間の下限がベースラインにかかるものの右肩上がりの傾向が示されています。つまり、Tsuda et al.(2022)や科学的エビデンス資料 1 の 20 ページでも紹介されている統計学の誤用をせずにデータをみれば、現段階の解析からは 9 割くらいのたしかさで被ばく起因性があると判断されます。この事実を無視されない検討を要望します。

各「科学的エビデンス」資料タイトルは以下のとおりです

★「福島特集」での甲状腺がん因果関係—⽇本の医科⼤学再⽣のために
★チェルノブイリ並み被ばくにより多発する福島甲状腺がん—UNSCEAR 線量/効果関係から被ばく線量を推定する
★福島市中⼼部における I-131 濃度に関するモニタリングポストと ATDM の⽐較から何が⾔えるか
★UNSCEAR 報告書の問題点~過小評価で固めた推定被ばく量とそれに依拠する人たち~
★県⺠健康調査の⽬的及び甲状腺がん当事者から見る過剰診断,甲状腺検査縮⼩論
添付資料
★「日本疫学学会誌『福島特集号』&UNSCEAR2020/2021 レポート検証シンポジウム」動画全記録(3月3日福島大学にて実施)
★上記シンポジウム・講演要旨
★3 月 3 日シンポジウム前に行われた記者会見でのプレスリリース
★3月3日福島大学シンポジウム記録サイト
 
      UNSCEAR2020/21 報告書検証ネットワーク
      3.3 福島大シンポジウム実行委員会

 
(別紙)
                  令和 5 年 3 ⽉ 13 ⽇
「県民健康調査」検討委員会・甲状腺検査評価部会の先生方への要望書

               岡山大学大学院・環境生命科学研究科
                ×× ××
     医師・医学博士・日本衛生学会エキスパート・嘱託産業医
       


謹啓

福島「県民健康調査」検討委員会・同甲状腺検査評価部会の諸先生方におかれましては、ますますご清栄にてご健勝のこととお慶び申し上げます。初めてお手紙を差し上げます。私は、岡山大学大学院・環境生命科学研究科の××××と申します。環境汚染による人体への悪影響を定量的に解明するのが専門の研究者です。

人体への悪影響の中には、もちろん、放
射線被ばくも含まれています。医学研究者になって以来、放射線被ばくによる健康影響に関しては、私自身、研究生活の早期から研究対象の 1 つとして取り組み、この約 40 年間、研究の発展を追ってきました。そして多くの医学研究者がそうであるように、国際的に研究者や専門家により共有されているこの分野の医学知識にも通じるべく努めております。

これまで、県民健康調査検討委員会に提出されてきた資料や昨年 12 月に発表された福島県立医科大学の先生方による「福島特集」(Journal of Epidemiology)の諸論文の内容を私が拝見している限りは、今日分かっていて国際的に共有されている放射線被ばくによる発がん影響に関する標準的知識が著しく不足しているようでした。

それだけでなく、この「福
島特集」の掲載諸論文での著しく均衡に欠いた引用の仕方にも気づかされます。それぞれの関係者、執筆の先生方が十分読みこなしておられない文献を根拠にしておられるようで、放射線被ばくによる健康影響を研究するために必要なはずの世界で共有されている情報が、あまり伝わっていないようです。

例えば、福島県の基本調査の要望書に毎度のように、また
この検討委員会で何度も話 題になった UNSCEAR 報告書の「100mSv 以下の被ばくではがんの多発に証明がない」という類の主張もまた、科学的根拠に反する誤った言明です。この「100mSv」という言い方については、以前から科学的根拠に反すると批判されてきており、すでに多くの論文により反証できておりました(例えば、Stewart 1958, Pierce 2000,Mathews 2013, Grant 2017 など)。

さらに、データの著しく蓄積は進み、最近では、アメリ
カ国立がん研究所から出された、放射線被ばくによる人体影響研究者らによる入念なメタ分析(多くの人体影響に関する原著論文を集積して定量的にまとめた系統的総説論文)の結果は(Hauptmann 2020)、明瞭に UNSCEAR による「100mSv」を反証しています。
 
また一方、上記の「福島特集」にて判明したのですが、福島県立医科大学の先生方の情報不足もかなり分かりました。掲載された論文の引用を確認していただければわかりますように、「福島特集」は、その情報源を、従来から根拠を明確に示していないことが指摘されてきた 全面的に UNSCEAR 報告書に頼っています。

これでは、検討委員会のご判断も大きく
偏った影響を受けかねないと判断しました。これらの問題に関して、今回、UNSCEAR の報告書の解説書としてまとめたものを、ご参考のために以下からダウンロードできるようにしてあります(「UNSCEAR2020/2021 報告書・医学関係の問題点に関する簡略解説」は、現在こちらからダウンロードできます:https://x.gd/VHEXK)。

日本国内、特に福島県での放射線被ばくの健康影響の情報と、海外の専門家の間で共有されている放射線被ばく影響に関する情報とが、著しく乖離しています。環境汚染による人体への発がん影響の専門家として、私は、これ以上看過し難いと判断しました。

UNSCEAR は
1950 年代に放射線の人体影響を問題とする科学者に対抗する形で、原子力推進の諸国からの代表を推薦するという設立経過がありますので、福島県の公衆衛生に対する関心が欠けているようにも見えます。

情報化の時代において、この異常な海外と国内の情報ギャップを維持し続けることは不可能です。この点は、どなたにも理解できることでしょう。そして、この情報ギャップの維持が不可能になった時、その対象が経済的損失に加えて健康障害である以上、国民・県民からは、怒り、悲しみなどの感情と共に叱責を伴う意見も出かねません。今日の社会では、情報開示が原則となっており、科学的に誤った知識は、早急に是正されるべきです。

万一、ど
の情報が正しいのか分からなくなった場合は、医学的根拠、科学的根拠をたどってお互いに議論をすれば良いだけです。しかし、残念ながら現在、日本の医学会においては、医学分野全体からすると放射線健康影響というテーマが非常に限られたマイナーな存在であることもあり、その役割を十分に果たせていません。

このようなギャップを埋めるために、本書簡
に添付した「UNSCEAR 報告書の解説書」以外に、私自身は、この問題に関心がおありの方々のために、公開での議論や紙上討論もお受けいたします。見解を異にする専門家同士が医学的根拠を持ち寄り、議論を交わす機会がないまま、このようなギャップが続くことは、検討委員会の審議やひいては、そして何より、福島県の皆さんに健康上の悪影響を及ぼしかねず、良い影響などありません。

「UNSCEAR 報告書の解説書」(前述:https://x.gd/VHEXK)を参考にしていただければ、UNSCEAR や福島県立医科大学からほとんどの情報を得ていらっしゃる多忙な先生方にも、今日、国際的に共有されている情報をいささかでもたやすく得ていただけるようになると思います。

すでに、このような問題に取り組む専門家が集まる国際環境疫学会 ISEE は、
3年半前の2015 年 10 月に私どもが出版した論文(Tsuda 2016a,b)とそれを報告した早期公開 Early Release による警告を受けて、学会理事らが環境省と福島県に公式書簡を送っています。

そして、この共有されている情報の方が、放射線被ばくに関する研究の第一線にお
いて成果を出している研究者たちの見解なのです。
「UNSCEAR 報告書の解説書」(前述:
https://x.gd/VHEXK)を御一読のうえ、ご検討の参照にしていただけましたら幸いです。

甲状腺がんの数十倍の多発という事実に関しては、平成 28 年 3 月に出された中間まとめにも記されており、この日本でどなたも異論を唱えられていないと思います。その多発の原因として、原発事故由来か過剰診断由来かの 2 つに絞られている点も、異論のないところです。

しかし、中間まとめが出された 2016 年以降、約 7 年経過しても、ほとんど何の対策
も行われていません。因果推論ばかりで公衆衛生的対策が行われてない事態は、絶対に避けなければならないことを考えると、非常に残念な事態が現実のものとなっています。

原因が原発事故であろうと過剰診断であろうと、皮膚を切開して、甲状腺を部分摘出もしくは全摘出を行うことに当面変わりはありません。問題は、その中から重症化する症例が少なからず出てきている点です。がんという早期発見早期治療と重症化予防が重要な病気を考えますと、一刻も早く全国に散らばった現および元福島県民に対して、適切な助言と共に、警告を出さねばならない状況だと考えます。

このような状況で、何ら医学的な根拠もない反証論文もある過剰診断説に繰り返し言及し、各種専門家との議論もしないまま、別途対策を指示するわけでもなく、児童生徒たちが必要な医療を実質的に妨げている現状は、児童虐待にも相当するようです。
漫然と会議だけを
延々と続けている検討委員会の現状は、社会的に肯定できるようなものではありません。

非難の対象ともなり得る現状は、時間の経過と共に、他の公害事件と同様に歴史に悪名を残し、その責任を厳しく問われかねません。UNSCEAR や IARC は海外組織です。その報告書が議論に影響を及ぼしても、日本国内での状況には一切、責任を引き受けてはくれないでしょう。現在、福島県の検討委員会が取り巻かれている厳しい現実に関して、委員の先生方にもご認識たまわりますよう、僭越ながら助言申し上げます。

★児童虐待の防止等に関する法律
★日本小児科学会
★東京都 第 3 章 虐待への対応
 
末筆ながら、検討委員会の先生方の益々のご活躍を祈念致しております。

                    謹白





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