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アメリカのコロナ危機出口戦略

PCR検査数が伸びない日本の状況、特に検体採取の方法ばかりが議論され、集めた検体を検査する体制については一切議論が封じられている日本の状況は、アメリカから見ると非常に特異に見えます。つい先日も、日本への投資を長年行ってきた財界の関係者から「その点が信用できないと日本への投資には大きな支障が出る」と・・・

日本の危機管理対応の劣化、『悪夢のアベ政権』に対しアメリカや世界中からの信頼を無くす事になる。コロナ後の日本は益々世界からの信頼を失い、置いてきぼりにされる。経済的にも更に大きな損失を被る。日本のコロナ禍は無恥・無能・無策・無責任のアベ晋三による人災。日本では政権も国会でもまったく出口戦略が語られていない異常さ。


     ーーー以下はJMMのメルマガを転載。ーーー

    「アメリカ東部のコロナ危機出口戦略、鍵はメガテスト」

    ■ 冷泉彰彦:作家(米国ニュージャージー州在住)

3月中旬以来、このメルマガでは、隔週でアメリカの状況を死者数の推移で見ています。今回も、最新、つまり現地時間の5月1日(金)の数字をこれに加えてみることにします。

全米レベル・・・・・・・・3月20日時点での死者     210
             4月 3日時点での死者    6586
             4月17日時点での死者   33325
             5月 1日時点での死者   63019

ニューヨーク州・・・・・・3月20日時点での死者      31
             4月 3日時点での死者    2985
             4月17日時点での死者   12822
             5月 1日時点での死者   18610

ニュージャージー州・・・・3月20日時点での死者      11
             4月 3日時点での死者     646
             4月17日時点での死者    3840
             5月 1日時点での死者    7538

大変な数字です。911もリーマンショックも、ベトナム戦争も吹っ飛ぶほどの危機、そんな言われ方もされるようになってきました。

この間の動きとしては、まずここ数日、私の住むニュージャージー州における一日ごとの死者数が、ニューヨーク州を上回るようになってきました。人口900万の州で、今日新たに発表された死者が311名、その前日は460名と非常に厳しい状況です。

ニューヨークの方は最悪期には一日あたり800名近い死者数が報告されていたわけですが、今週に入ってからは300弱という水準になって来ました。そうではあるのですが、毎日の定例会見においてクオモ知事は死者数に言及する際には、必ず威儀を正して「この数字は悲痛、痛恨の極み」としています。
「新規入院数」などの指標数字に関して改善が見られると「グッドニュース」として紹介するのですが、死者数については減っても減ったなりに親族などの悲痛に変りはないことを考えると、当然といえば当然です。ですが、それを誠実にやり切るということには、また別の重みが感じられます。

ニュージャージーのマーフィー知事の場合は、必ず2名から3名のコロナ物故者について紹介して、その人生を讃えるということを続けています。こちらの方も、淡々と続けているからこそ、400名超という厳しい数字にも向かい合えるのでしょう。

そんなわけで、この2つの州では、季節こそ晩春の穏やかさと雨がちの潤いに包まれているものの、やはり闇の中を歩いているような感覚が続いています。NYでは、コロナ病棟で奮闘の後に、自身も感染、治癒を減る中で精神的に燃え尽きてしまい、自ら命を絶った医師のことが話題になっています。このローナ・ブリーン医師は、緊急救命室(ER)のチーフであった女性で、MD(医学博士)だけでなくMBA(経営学修士)の学位も得て、ニューヨークの医療現場を牽引する立場にあった女性でした。

彼女の死が多くの人に深い感慨を与えたのは、そのような人物の精神を燃やし尽くしたCOVID19という疾病の恐ろしさであると同時に、彼女への感謝であり、また彼女の犠牲を無駄にしないという意志もあるように思います。戦争が人の命を奪うゲームであるのなら、コロナ危機との戦いは、いかに生命を救うかという戦いであり、その戦いに倒れた人は、やはり英雄として処したいし、そうすることで辛うじてコミュニティの希望をつなぐことができる、そんな感覚もあります。

一方で、4月の末からは、最初に大統領が「けしかけた」こともあって、南部と中西部では、各州の知事が性急に「社会の再オープン」に走りつつあります。気がつくと、恐ろしいことに「ロックダウン続行か? 社会の再オープンか?」という選択肢が対立の軸となっており、そこが完全に左右対立に重なってしまうというアメリカの悪いクセが出てきたとも言えます。

ブリーン医師の燃え尽きたかのような亡くなり方が、NYを中心に深い共感を呼んでいるのは、そのように「性急に経済活動を再開したい」という政治的な動きへの反発も含まれているかもしれません。

では、感染が拡大し、世界でも最も犠牲の多い地域となってしまった、ニューヨークやニュージャージーでは「社会の再オープン」の議論はどうなっているのかというと、実は少しずつ始まっています。クオモ知事も、マーフィー知事も、毎日の定例会見でそのことを少しずつ語るようになってきました。

とりあえず、この2つの州に関して言えば、現時点で決まっていることは僅かです。ニューヨーク州では、5月15日以降に経済を再オープンする場合は、建設業と製造業を先にすること、同時に6月の学年末まで学校は休校を継続すること、この2つが決まっています。また、ニュージャージー州では5月2日より閉鎖していた州立公園を開くことが発表されています。

ですが、それ以外については、まだ2人の知事は慎重な姿勢を保っています。ですが、「どうしたら経済活動のオープンへ進めるか?」という指標は明らかにしています。まずフェーズ1として、限定的なオープンをする条件としては、具体的には2つあります。

1)新規入院患者数を中心とした各指標が「14日連続」で減少傾向にあること。
2)基本再生産数(R0=アール・ノート、1名の感染者が感染させる人数の総平均)が1.1未満となること。

の2点です。このうち1)については、ホワイトハウスの専門家チームが重視している考え方で、トランプ大統領も賛同していたのですが、南部や中西部の諸州はこれを無視しています。一方で、ニューヨーク、ニュージャージーはこれを厳密に適用するとしています。

更にR0というのは、本来は1未満でなくてはならないのですが、アメリカの考え方としては、「医療機関のキャパシティは順次整備が進む」ので、医療崩壊阻止を大前提とした場合は、「1未満よりやや甘い1.1未満で良い」という考え方に即しています。いずれにしても、明確な基準です。

その上で、更に経済活動を広く許容する、つまりフェーズ2に進むには、感染状況の広範な把握が必要だということで、検査の大規模化が前提となっています。アメリカでは、例えばコロナ対策のために私財をなげうって活動している、ビル・ゲイツ氏や、マイケル・ブルームバーグ氏が、特にこの大規模検査、可能であれば全人口を対象とした「メガテスト」の実施を主張しています。

この2つの州が計画しているのは、それに近い形です。具体的な検査というのは、まだ定義が明確ではありませんが、今のところ、大きく2つの方法が実現しつつあり検討されてます。

1つは、ラトガース大学の開発した新しいPCR検査で、従来行われていた綿棒による「鼻咽頭ぬぐい液」の採取ではなく、被験者が自ら唾液を試薬に混合して検体とするという方法が用いられるものです。従って検体採取におけるリスクは劇的に低減されます。また検査自体も簡単で廉価、大量かつ高速判定が可能ということです。もう1つは、抗体検査です。感染の結果生成される抗体を、指先から採取した少量の血液によってほぼ即時に判定ができるというものです。

現在、この2つの方法を導入することにより、検査の件数と判定速度を更に大きく改善してゆく、これが「経済活動再開フェーズ2」実現の前提とされているというわけです。

では、どうして「メガテスト」が必要なのかというと、直接的には「感染の収束」というのは、それ以外に確認のしようがないし、また「第二波」への警戒活動もこの方法で行うしかないという事情があります。

それだけではありません。コロナ危機の恐怖を本当に経験していない南部や中西部はともかく、ニューヨークやニュージャージーの人々は、コロナの恐怖というのは身に沁みて理解しています。この2つの州では、例えばですが、親族や知人などでCOVID19肺炎で亡くなった人が「いない」方が少数という状態だからです。

ですから、例えばある日から「社会が再オープン」したとして、人々は簡単には買い物や外食、娯楽などには出かけないでしょうし、相応な対策をしていない職場への通勤はしないでしょう。仮に人と人の距離を取ったり、感染拡大防止の措置をするにしても、「以前のような」経済の活況を取り戻すには程遠いことになるはずです。

そこに必要なのは、明らかに「感染が収束している」という証拠です。州政府が一方的に宣言しただけでは、その証拠にはなりません。あくまで人々が安心して、社会へ出てきて経済活動を行うには、データ、つまり「検査結果」がなくてはダメなのです。これは極めて自然な道理であると思いますし、少なくともホワイトハウスの専門家チーム(正副大統領は理解していないと思いますが)や、クオモ知事、マーフィー知事は、良く分かっていると思います。

何のために、定例会見を毎日行って、あの膨大な死者数と向き合ってきたのかといえば、この膨大な死という重たい事実を受け止め、その上で、州民の恐怖感を除いて、経済活動を再開するには何が必要か、それを世論とともに考えてきたのだと思います。

勿論、アメリカですから検査の精度も、集計の精度も、初めは誤差があると思います。ですが、とにかく大規模な検査を行って、走りながら精度を高めてゆく、これが当面の姿勢となると思います。

例えばですが、医療従事者の全員、鉄道やバスなど公共交通機関の現場職員も全員、またエッセンシャルワーカーと言われている生活の維持に必要なスーパーの店員なども全員を対象に、まず検査が行われる予定です。勿論、そうした大規模データは感染収束のトレンドを見極めるために使われますが、同時に一般の人々が社会へ出ていくための安心感醸成にも、必要というわけです。

その意味で、検査数が伸びない日本の状況、特に検体採取の方法ばかりが議論され、集めた検体を検査する体制については一切議論が封じられている日本の状況は、アメリカから見ると非常に特異に見えます。つい先日も、日本への投資を長年行ってきた財界の関係者から「その点が信用できないと日本への投資には大きな支障が出る」とクギを刺されたばかりです。

それはともかく、アメリカは取りあえず社会における経済活動の再オープンへ舵を切ろうとしています。あくまで収束の方向が見えるのが前提、そしてメガテスト(大規模検査)が前提、そしてワクチンが間に合わなければ秋以降の「第二波」も覚悟の上、という中で社会を少しでも前へ進めるということになりました。コロナ危機との戦いは、むしろこれからが正念場とも言えます。

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