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原発事故後の矛盾と非論理性

郡山市民で、元高校教員の方から、原発事故以降の政府や福島県、そして国連科学委員会(UNSCEAR)への疑問、矛盾、非論理性に関する感想を本人の了解のもと掲載します。

貴重な意見として、記憶と記録の為にも・・・

  ーーー以下転載ーーー

フクシマの住民の目から見た感想を,以下に5点お伝えします.

1. 初期被ばくのデータの決定的な欠如という事実が忘れられていることへの違和感2. UNSCEARの報告は,住民の「不安」を払拭させる根拠にはならない
3. 平均値を政策決定に採用することの非倫理性
4. 放射線による直接の影響と,間接的影響の混同
5. 甲状腺検査の目的の歪曲

1.初期被ばくのデータの決定的な欠如という事実が忘れられていることへの違和感

 事故直後のあの大混乱の状況下で,住民の初期被ばくについては,例外的なごく少数のデータしか存在しません.実際,事故直後は,専門家はおろか,ジャーナリストでさえ,避難区域には近づかなかった位ですから,データがないのは当然です.

 特にヨウ素131については,後から推定した間接的なデータがほとんどであり,少数のデータに対して適当なモデルを作って処理した仮説的な結論を,被ばくの実態として評価しているに過ぎないと思っています.

 そのような,限られたデータを元にしたモデル化によるシミュレーションの結果は,とても信頼度が高いとは言えないし,個々の住民からすれば自分たちのおかれた固有の状況が何ら反映されたものではないと感じるはずです.

 にもかかわらずUNSCEARは,そのような不確実性の極めて高い研究結果を一次資料として,報告書を作成しているわけです.住民としては自分たちの存在が,報告のどこに反映されているのか,全く実感が得られないような内容になっていると思います.

2.UNSCEARの報告は,住民の「不安」を払拭させる根拠にはならない

 避難者や住民にとっては,データの平均値(が低いのは歓迎だとしても)は問題の本質ではなく,最高値やそれに近いデータこそが懸念の対象です.高レベルの被ばくが少ないに越したことはありませんが,たとえ少なくてもゼロではないことが重大です.外部の目には,全体に関するマクロなトレンドに目が行きがちですが,被ばくした当事者はミクロかつローカルな観点で受け止めざるを得ません.

 たとえば,UNSCEAR2020/2021年報告書に,「図A-XV(避難者の事故直後1年間における甲状腺吸収線量の分布)は・・・避難者の約15%が約1mGy以下の甲状腺吸収線量を受けていると推定され、約0.2%が100mGyを上回る同線量を受けていると推定された」という文章があります(p.159,A130.図A-XVはp.163).

ここで「避難者」数をp.49の記述から合計11万8000人(78000+10000+30000)とすると,その0.2%とは236人になります.236人もの人が,100mGyを越える(100mGyという数字には意味はないのでそれ以下でも問題ですが)甲状腺被ばくをしていることになりますが,UNSCEARにとっては,この程度はノイズぐらいにしか考えないのではないかと思います.

しかし実際に被ばくした可能性を危惧している避難者にとっては,大問題なわけです.(自分たちの誰かが被ばくしている確率が0.2%すなわち1/500ということは,宝くじで考えれば500人に1人が大当たりするということになり,馬鹿になりません.)

政府でさえ,「被害者に寄り添って」などと言っているのに比べて,「科学」は全然寄り添っていません.

3.平均値を政策決定に採用することの非倫理性

 報告が,もともと貧弱なデータのさらに過小評価が行われ,政策決定の根拠にされることは容認できませんが,それ以前に平均値のような数値を政策決定の標準とするという考え方が間違いです.平均値で問題を論じることは,少数の高い値をはずれ値として捨象することを意味し,最も「寄り添う」べき高レベル被ばく者を切り捨てることを正当化します.平均値(広範囲でデータを取るほど低くなる)を政策決定の科学的根拠にすること自体が人権侵害で非倫理的だと思います.

4.放射線による直接の影響と,間接的影響の混同

 UNSCEARは,いわき市パブリック・ミーティングのパンフレットによると〈健康への影響〉として;「事故による放射線被ばくに<直接>帰因すると思われる福島県民の健康被害は報告されていません」

「放射線被ばくは・・疾病発生率を増加させる可能性があります.しかし・・・区別することは一般的に不可能です(is not generaly possible to distinguish..)

「放射線に関連した健康影響が検出される可能性は低い(are unlikely to be detectable)」などと記載し,

「心血管系および代謝系疾患の発生率の増加が観察されていましたが,・・・放射性被ばくに帰因するものではありません.」

「精神的健康や経済的影響など,・・その他の県境影響については触れていません.」と言っています.

 つまり,UNSCEARは,放射線被ばくとその直接の影響以外には興味がなく,それ以外の健康影響(すべては放射能放出を伴う事故に帰因して起こった)については言及していないわけです.

 にもかかわらず,これを,くだんの福島民友の社説に記述に見られるように,「放射線の健康への影響」と「事故による健康への影響」をごっちゃにして論じられてしまうと,事故によるリスク認識や避難に伴うストレスなど,間接的な健康影響がすべて軽視ないし無視されてしまうことになりかねません.

5.甲状腺検査の目的の歪曲

  福島県の健康調査は,あくまで住民の不安に答えるために始められたのであり,科学的な関心によるデータの収集のためではありません.それがいつの間にか,被ばくによる影響の有無だけが関心の的となり,住民の不安に答えるという目的が忘れられているように思います.

被ばくの直接影響が認められないなどといわれても,実際に甲状腺がんが多発しているという事実についての住民の不安に答えることには全くなりません.まして検査をしなければ(過剰診断が起こらず)よかった,などという「科学的助言」は,人災による被害者を愚弄するようなものではないかと感じます.

 

 

 

 

 

 


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