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汚染水海洋放出の反対声明

「UNSCEAR2020/21報告書検証ネットワーク」が汚染水海洋放出の反対声明を公開した。「処理水放出を推奨するものでも支持するものでもない」と表明する IAEA 包括報告書を盾とした汚染水の海洋放出強行に反対する。

詳細は以下ご覧ください。
https://www.unscear2020report-verification.net

以下全文を貼り付けておく。
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【UNSCEAR2020/21 報告書検証ネットワーク声明】

「処理水放出を推奨するものでも支持するものでもない」と表明するIAEA 包括報告書を盾とした汚染水の海洋放出強行に反対する。

2023 年 7 月 4 日、IAEA(国際原子力機関)は日本政府の要請に基づき東電福島第一原発の ALPS 処理水の安全性に関する包括的な報告書を日本政府に提出した。それを受け取った岸田首相は、「IAEA の方からは、ALPS 処理水の海洋放出が国際安全基準に整合的であるということ、人、および環境への放射線影響は無視できるほどであるということ、

こういったことなども発表されています。我が国は今回の IAEA の包括的報告書を踏まえて、引き続き科学的根拠に基づいて、国の内外に対して高い透明性を持って、丁寧に説明を行っていきたい」と発言した。

同日、IAEA は「福島原発の処理水を海に放出する日本の計画が国際安全基準に準拠していると認定」というタイトルでプレス・リリースをおこなった。経済産業省も、IAEA 報告書は「ALPS 処理水の海洋放出」が「国際的な安全基準に整合的」であり、「人及び環境に与える放射線の影響は無視できるものと結論づけた」と宣伝した。

以上の発表は、IAEA が東電および日本政府による汚染水の海洋放出計画にお墨付きを与えたかの印象を与えた。しかし、これは日本政府による偽装であり、多くの報道機関はそれを検証することなく報道した。IAEA 報告書の中の以下の決定的な記述が省略されている。

「最後に、福島第一原子力発電所に貯蔵されている処理水の放出は、日本政府による国家的決定であり、この報告書はその方針を推奨するものでも支持するものでもないことを強調しておきたい。」(グロッシ IAEA 事務局長の序言より)

「日本政府から IAEA に対し、ALPS 処理水の海洋排出に関連する国際安全基準の適用を審査するよう要請があったのは、日本政府の決定後であった。したがって、今回の IAEAの安全審査の範囲には、日本政府がたどった正当化プロセスの詳細に関する評価は含まれていない。」 「ALPS 処理水の排出を正当化する責任は、日本政府にある。」(2・4「正当化」の結論)

<IAEA 報告を海洋放出のお墨付きであるかのように偽装した日本政府> 

つまり、IAEA は「ALPS 処理水」の海洋放出という日本政府の行為を「正当化」していないし「支持」もしていない。IAEA は「正当化は、放射線防護の国際基準の基本原則である。つまり、放射線被曝の状況を変えるような決定は、害よりも益をもたらすものでなければならない」と IAEA が依拠している ICRP の「防護原則」を確認し、「貯留される ALPS 処理水の管理方法の最終的な選択の正当性は、多くの利害関係者にとって極めて重要であり、日本政府から明確な説明がなされるべきものである」と述べている。

私たちは、必ずしも ICRP の防護原則すべてを支持するわけではないが、汚染水の海洋放出が、人の健康、生態系、人間の社会的・経済的活動に害を及ぼすのみであり、すでに提案されている代替手段に比べ人類に便益を生み出さず、正当化できるものではないと考える。

IAEA のいう「国際的な安全基準に整合的」とは、「ALPS 処理水」放出による公衆被ばく線量推定のために東電が実施した放射線環境影響評価(REIA)のやり方が、IAEA つまりICRP の基準に沿ったものであると言っているにすぎない。東電が自ら作成したシナリオで計算し、規制庁が承認した実効線量値が、ICRP の線量限度(1mSv/年)や規制庁の線量制約(0.05mSv/年)を下回っていることを IAEA は「(健康影響を)無視できるものである」と表現し、それに「注目している」と述べたにすぎない。

IAEA は自らの原発汚染水の分析を「裏付け活動」(corroboration activities)と位置づけいる。科学で「裏付け活動」は分析対象の主張(IAEA 報告書では東電の主張)の補強(すなわち裏付け)を目的とする活動であり、その主張が事実かどうかの確認に焦点を合わせる「検証」(verification)のための活動とは目的を異にする。放出時点でも将来に渡っても、IAEA 報告書は、海洋放出が人類や海洋の生態系に無害である、と安全を保障しようとするものではない。

それにもかかわらず、日本政府は、「透明性をもって」どころか本声明で述べる一連のIAEA 報告書の論点を説明せず、IAEA 報告書によって「安全」が担保されたかのように装い、報告書を盾に汚染水の海洋放出を強行しようとしている。それは福島小児甲状がん多発の原因が放射線の影響であることは明らかなのに、それを否定する間違った主張を正当化するために UNSCEAR2020/21 報告書を利用したのと同様なやり方であり、科学的にも倫理的にも私たちは絶対認めることはできない。

<いかに薄めてもデブリと接触した核分裂生成物を含む水の放出は地球史的犯罪> 

日本政府はこれまで多核種除去設備(ALPS)によって、トリチウム以外の放射性核種は除去できるとし、トリチウムも ICRP の線量係数を使って実効線量に換算し、その健康影響は無視できると主張してきた。IAEA 報告書には魚介類摂取による内部被曝線量を算出する東電の計算過程で、ヨウ素 129、炭素 14、鉄 55、セレン 79 などの放射性核種の摂取による寄与率が、トリチウムのそれより遥かに高いことが示されている(IAEA 報告書 77 頁、特に Table 3.8)。

これまでもセシウム 137 やストロンチウム 90、コバルト 60、プルトニウム 239 など多くの放射性核種が ALPS 処理後も基準を超えて多く残っていることは東電の放射線環境影響評価でも明らかとなっているが、2 回以上 ALPS 処理(2次処理)し、さらに薄めて基準以下で放出するので安全だと東電は主張してきた。しかし、2次処理によって基準以下にできることは確証されていないし、IAEA 報告書も ALPS の 2 次処理能力を評価対象としていない。放射性物質の放出の影響は放出総量で考えるべきで、何十年もかけて薄めて流すことで安全が担保されるわけではない。

IAEA 報告書は「希釈が放射線防護と安全の目的で行われることを意味しないように注意する必要」があり、「希釈の理由を明確に示すべきであると助言した」(41 頁)と述べている。IAEA 報告書によったとしても、「薄めるから安全」は成り立たないのである。放射性物質が海洋で生物濃縮されることは以前から知られており(1)、東電は IAEA の定めた濃縮係数を使いトリチウムの魚類への濃縮係数を1としている。トリチウムは水素の放射性同位体であり、その化学的性質から DNA など生体分子を構成する最も主要な元素として容易に生体に取り込まれ、有機結合トリチウム(OBT)として存在し、核壊変による細胞破壊を引き起こす。また、トリチウムの汚染粒子の摂取を介した水性の食物連鎖を通じ生物濃縮されることを示唆する研究も存在する(2)。トリチウムのリスクを不当に過小評価したまま見切り発車で「処理水」を海洋放出するなどあってはならない。

東電と政府は、トリチウム水はこれまでも世界中の原発・再処理施設で放出されていると自己弁護している。他所でのトリチウム放出ももちろん許されるべきではないが、原発の通常稼働によって生じたトリチウム水と違って、崩壊し溶解した核燃料であるデブリと核分裂生成物との直接接触を起源とする汚染水をトリチウム水だとして意図的に海に流すという行為は前代未聞である。人新世が話題になっているが、このような放射性物質を30年以上にわたって海に放出し続けることは人類だけでなく地球史レベルの犯罪行為である。

<IAEA は「ALPS 処理水」の健康・生態系影響に関する科学的検証を行え> 

IAEA が「国際的な安全基準に整合的」と評価した東電の放射性影響評価では「人体への影響評価は、一般公衆の線量限度(年間 1 ミリシーベルト)に対して、約 50 万分の1〜3万分の1」とされたが、こうした計算に利用したのが IAEA の安全基準文書や ICRP 勧告なのだから「整合的」なのは当然のことである。これによって日本政府は「放射線の影響は無視できる」と言っているが、この評価は 1 年ごとの放出濃度に対してであり、海洋放出が何年続き、放出総量がどれだけになるのか明らかになっておらず、リスクの科学的評価とはとうてい言えない代物である。

また、内部被曝の健康影響を ICRP の線量係数を使って実効線量に換算するだけのやり方ではリスクの過小評価につながる恐れがある(3)。原爆の残留放射能に曝された被爆者、水爆実験のフォールアウトを浴びた漁民や船員、原発建屋内の作業で被曝した労働者などが訴えてきた健康障害は、ICRP モデルによる線量推定によって、被ばく線量が小さいとして放射線の影響ではないと否定されてきた。そのようにして被害を無視・軽視してきた日本政府が今回もまた「放射線影響は無視できる」とくり返しているのだ。

また、原発事故後甲状腺がんになった若者の被害も UNSCEAR2020/2021 報告書の甲状腺等価線量の大幅な過小評価によって、被ばく線量が小さく放射線の影響ではないとされてきた。汚染水の海洋放出でも同じ論理で「安全だ」と強調されている。私たちは汚染水の海洋放出による健康リスクの科学的評価もなされないまま、「ALPS 処理水」の海洋放出は「無害」だとの印象操作だけで汚染水を海洋放出することに強く反対し、計画の撤回を要求する。

「科学的」に安全だと言って、原発事故を防げなかった政府や東電がいう「科学的」という言葉の使い方には虚偽がある。「科学」は究極の真理というものではなく、絶えず最新の知見で更新されなければならない。将来にわたって安全を保障するためには「科学」の誤用・悪用を避けなければならない。

最後に、以上を踏まえて、私たちは IAEA に対し、ALPS 処理水の安全性に関する包括的報告書に関し、福島県内数か所および東京での説明会・意見交換会(パブリックミーティング)を 8 月中にも開催するよう要請する。

(注1) 鈴木譲「海洋における放射性物質の生物濃縮」『保健物理』,29,134-137(1994)

(注 2) Andrew Turner, Geoffrey E. Millward, Martin Stemp, “Distribution of tritium in estuarine waters: the role of organic matter,” Journal of Environmental Radioactivity, 100 (2009), 890–895

(注 3) ICRP のリスクモデルでは電離エネルギーは臓器や組織、細胞全体に均一に負荷すると仮定されている。実際は内部被ばくの線源が微粒子など生体内に不均一に分布する場合、エネルギーは局所的に負荷し、高線量となって細胞や臓器を破壊する。ICRP はトリチウム(特に OBT)の体内動態モデルを見直し(実効線量係数も見直し)ている。日本政府はようやく放射線審議会でICRP が変更した実効線量係数を採用するかどうかの検討に着手したばかりである。

 2023 年 7 月 22 日

 UNSCEAR2020/21 報告書検証ネットワーク
https://www.unscear2020report-verification.net

 

 


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