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国連科学委員会レポートの内部被ばくの矮小化(前半)

文字数の制限で2分割で掲載します。

後半は以下をご覧ください。
 
【線量推計値の矮小化(係数を1/2)】
国連科学委員会2020レポートは線量評価を矮小化している。
その一例が放射性ヨウ素の体内摂取量から甲状腺に集まる係数を日本人の場合はICRP係数の1/2を採用し、内部被ばく線量値(甲状腺等価線量)を矮小化※している。                        
※日本人は西洋人に比較し昆布の摂取量が多い為に甲状腺に集まる放射性ヨウ素が甲状腺に集まるのは西洋人(30%)の半分(15%)とした。 
                        
その問題点について大阪大学の本行忠志名誉教授の以下の論考に詳しく記載されてる。ご本人の了解のもとここに公開する。

この事は小生の『国連科学委員会への公開質問と回答』の記事の質問9で指摘している。
【日本人のヨウ素摂取量についての考察と福島原発事故における安定ヨウ素剤についての検証】
               大阪大学 名誉教授 (放射線生物学)
                    本行 忠志


はじめに
福島原発事故において、安定ヨウ素剤が配布・内服の指示がなかった理由の一つに「日本人はヨウ素摂取量が多いから放射性ヨウ素を少々浴びても大丈夫」という慢心がなかったか懸念される。UNSCEAR Report 2020では「日本人はヨウ素摂取量が多いから」という理由で甲状腺等価線量係数の値を1/2に下げている。

全国的な調査が全くないまま、日本人は海藻をよく食べるからヨウ素摂取量が多いと決めつけるのは、余りにも短絡的、稚拙と言わざるを得ない。
また、福島原発事故においては、首相をはじめ国や県の関係者、東電社員は安定ヨウ素剤を内服していたが、福島県の住民にはほとんど配布指示さえない状態だった。原発事故における安定ヨウ素剤の内服は最重要事項の一つだが、このことはUNSCEAR Reportには一切記載されていない。
責任逃れや責任追及に終始するよりも、今後の原発事故が起きた時に同じ愚行を繰り返さないよう、しっかりと検証することの方が重要である。

目次
1.本当に日本人のヨウ素摂取量は多いか
1-1.日本人摂取の大規模調査は全くされてない
1-2.日本人の昆布消費量は昔より大きく減少している
1-3.日本人個人々の食事形態は大きく異なり、ヨウ素が不足している場合も ある
1-4.尿中ヨウ素量は食事摂取量と相関するが個人差が非常に大きい
1-5. 事故直後は海産物の流通は止まり、汚染した野菜は流通していた
1-6. 小児のヨウ素摂取について

2.UNSCEAR Report 2020の「日本人はヨウ素摂取量が多いから係数を1/2にした」について

3.安定ヨウ素剤の重要性
3-1. 原発事故における安定ヨウ素剤の重要性
3-2.なぜ、福島原発事故では、住民に安定ヨウ素剤の配布・内服の指示がなかったか
3-2-1.国・県からの目線だと
3-2-2.住民からの目線だと
3-3. 福島原発事故では、被ばく量に関係なく、全員安定ヨウ素剤を服用するべきだった
3-3-1.なぜ安定ヨウ素剤は全員に必要か
3-3-2.安定ヨウ素剤の重篤な副作用は報告されていない
3-3-3.妊婦や乳児に安定ヨウ素剤内服について

4.今後の原発事故に備えて
各論
1.本当に日本人のヨウ素摂取量は多いか
1-1.日本人摂取の大規模調査は全くされてない。
・厚生労働省によると、「日本人において、推定平均必要量の算定に有用な報告がないため、欧米研究結果に基づき成人と小児の推定平均必要量と推奨量を算定した。」とあり、調査がされてないことを認めている (文献1)。
・布施らは、「世界のヨウ素栄養状態についてはWHOの集計があるが、データの全くない国(日本も含まれる)、データの不十分な国も多い」としている (文献2)。

1-2.日本人の昆布消費量は昔より大きく減少している。
・総務省の家計調査によると、20年前と比べて、1世帯当たりの昆布の年間購入量は約半分に減少している (文献3)。

1-3.日本人個人個人で食事形態は大きく異なり、ヨウ素が不足している場合もある。
・Katagiriらは、「特に若い人において、食事パターンの変化に伴い、ヨウ素不足が徐々に増加しうる」と報告している(文献4)。

1-4.尿中ヨウ素量は食事摂取量と相関するが個人差が非常に大きい(ヨウ素摂取量は一律ではない)。
・厚生労働省は、「集団においてはヨウ素摂取量と 24 時間尿中のヨウ素濃度との間には、回帰式 [ヨウ素摂取量(µg/日)=尿中ヨウ素濃度(µg/L)×0.0235×体重(kg))] が成立する」と報告しており (文献5)、尿中ヨウ素濃度を調べることでヨウ素摂取量が推定できることを示している。

・久田らは、「ヨウ素を高濃度に含むと考えられる食品等を摂取した場合(n=36)と摂取しなかった場合(n=34)での翌日の早朝尿中ヨウ素濃度を比較したところ、前日にヨウ素を高濃度に含むと考えられる食品等を摂取した場合のヨウ素濃度は有意に高かった(p<0.01, t-test)。」と、ヨウ素摂取量が尿中ヨウ素濃度と相関することを報告している(文献6)
   
・Katagiriらは、「日本人の尿中ヨウ素排泄量には昆布と魚が重要な決定因子であることがわかった。」と報告している (文献7)。
・布施らは、「尿中ヨウ素濃度は14.8%が100μg/L未満であり、13.8%は1mg/L以上と非常にばらつきがあった」と報告しており(文献2)、このことは、ヨウ素摂取量もばらつきが大きいことを示している。


・福島県民健康調査によると、1回目~4回目検査の甲状腺がんの人、あるいはがんでない人の数、尿中ヨウ素の最小値、最大値は表1のようになり、極めてばらつきが大きく(文献8)、これは、ヨウ素摂取量の多い、少ないにかかわらず甲状腺がんが発生していることを示している。

表1 福島県民健康調査による尿中ヨウ素データ (μg/day)
表1.png
    
1-5.事故直後は海産物の流通は止まり、汚染した野菜は流通していた
・事故時、地震・津波の影響もあり海産物の流通は止まったままだった。すなわち、事故直後のヨウ素摂取量は全体に低下した可能性がある(文献9)。
逆に、福島市中央卸売市場は3月11日の地震で甚大な被害を受けたものの、震災翌日には開き野菜の流通は再開され、出荷制限される3月22日まで続いていた。そして表2のように、野菜は放射性ヨウ素(特に131Iや132I)で大量に汚染されていた(文献10)。
表2 事故直後の福島県の野菜等の測定結果  (Bq/kg生)   
             財団法人日本分析センター
市町村名 試料名   I-131 I-132      Cs-134    Cs-137
新地町 ショウブ   7,400 16,000   7,800       7,600
相馬市 セリ     22,000 33,000 16,000    17,000
南相馬市 雑草   44,000 48,000  24,000    25,000
飯館村 雑草     880,000 890,000 520,000 500,000
飯館村 ブロッコリー 36,000 25,000 14,000     14,000
福島市 アサツキ     48,000 76,000    64,000    64,000
二本松市 紅菜苔     11,000 29,000    25,000     25,000
大玉村 ほうれん草 43,000 73,000     89,000     90,000
本宮市 茎立菜    21,000 55,000    57,000     57,000
郡山市 キャベツ    15,000 49,000    49,000     50,000
田村市 ほうれん草 35,000 45,000    52,000     54,000
小野町 ほうれん草 22,000 12,000    12,000     12,000
泉崎村 ほうれん草 15,000 20,000    12,000     12,000
西郷村 山東菜    12,000 27,000   25,000     25,000
棚倉町 ちぢれ菜    11,000 16,000    15,000     15,000
川俣町 信夫冬菜    40,000 74,000    29,000     30,000
3月18, 19日に採取、20日に計測  減衰補正は行われていない
すなわち、海産物の流通の止まりで、(安定)ヨウ素摂取は減り、逆に汚染野菜による放射性ヨウ素摂取の増加で、甲状腺がんの発生確率が高くなった可能性がある。

1-6. 小児のヨウ素摂取について
・1歳くらいまでの授乳児はすべて母親の食事に依存するため、母親はヨウ素を取り過ぎないように気を付けているはずであり、また、離乳食のヨウ素含有量は世界共通のため、日本の子どものヨウ素摂取量が多いとは考えにくい。
・一般に子供は、味噌汁を余り飲まない傾向にあり、偏食する子どもも多いことから、ヨウ素欠乏状態にある日本の子どもの存在も考えられる。塚田らは、「近年、 昆布の消費量の減少とヨウ素摂取源の変化がみられ、実際にヨウ素欠乏に近い集団(若年者、授乳 婦など)が存在する」と報告している(文献11)。

2.UNSCEAR Report 2020の「日本人はヨウ素摂取量が多いから係数を1/2にした」について
UNSCEAR Report 2020のパラグラフ147には、「日本人は伝統的にヨウ素を多く含む食事をしており、1日に最大数万マイクログラムの安定ヨウ素を含み、これは世界平均より約2桁大きい[K5, L3, N2, Z6, Z7]。その結果、日本人の摂取または吸入による放射性ヨウ素の甲状腺への取り込みは、UNSCEAR 2013報告書で使用されたICRPの参照値より低いと予想される。
------中略-----

その結果、一般的な日本人の食事から得られる線量係数は、UNSCEAR 2013報告書(ICRPが全世界での一般的な適用を勧告)で用いられた線量係数よりも約2倍低くな っている。」とある。

上記の参考文献[K5, L3, N2, Z6, Z7]を具体的に見てみると、
K5: Katagiri, R.,et al, 2015 (文献4)
「日本はヨウ素の消費量が多い国として知られているが、伝統的な食中心の食生活をせずに、ヨウ素をほとんど摂取していない日本人もいる。若い人は現代的な欧米化した食生活をしていることが多いので、今後、ヨウ素欠乏症が憂慮される事態になるかもしれない。」と述べている。
すなわち、食事内容によっては日本人のヨウ素摂取量は多いとは限らないことを証明している。

L3: Leggett, R.W.et al, 2010 (文献12)
内部被ばくした放射性ヨウ素の線量評価に用いるための全身ヨウ素の生体内動態モデルを提案したもので、日本人のヨウ素摂取量の話は全く出てこない。

N2: Nagataki, S., et al,1967. (文献13)
15名の日本人のヨウ素摂取量を調べたもの、しかも55年前の報告で全く参考にならない。

Z6: Zimmermann, M.B.,et al, 2004. (文献14)
5大陸の人のヨウ素摂取量を調べたと言っているが、日本人は特にヨウ素摂取量が多いとされる北海道の人だけを調べたもので、地域的な偏りを否定できない。

Z7: Zimmermann, M.B.,et al, 2005. (文献15)
内容は、上記(文献Z6)とほぼ同じ。

以上より、これら5編の取り上げている参考文献は、全く的外れで、日本人のヨウ素摂取量は多いことを証明する根拠には全くなっていない。


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