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原子力は気候を救わない

原自連のメルマガの一部を転載する。現在の世界の原発の状況と技術的問題点を提起している。原発は有ってはならない存在。



原子力は気候を救わない
  飛幡祐規
(1) 低迷する原子力産業

原子力が気候を救わないことは、エネルギー問題を世界規模で考えればすぐわかる。フランスは電力消費における原子力への依存率が67%と世界で最も高いが、それは世界的には例外であり、原子力発電を行うのは33か国だけだ(現在稼働中の原子炉は合計415基)。

2020年の世界の電力生産に対する原子力のシェアは10,1%。ピークの1996年でも17,5%で、不幸中の幸いといおうか、原発は世界に広く開発・普及できなかった技術なのだ(現在、生産量の多い順にUSA、中国、フランス、ロシア、韓国)。ちなみに、世界のエネルギー消費における原子力のシェアは4,3%にすぎない(2014年以降)。

毎年、世界の原子力発電・原発建設の変遷を分析している「原子力産業情勢報告WNISR」の近年の報告を見ると、原発建設・稼動開始のピーク期は1970年代半ば~1980年代半ばで、スリーマイル、チェルノブイリ、フクシマ事故後はぐっと低迷したことがわかる。フクシマ後に新稼動した原子炉63基(うち37基は中国)の建設開始から稼動までの平均年数は、9,9年と長い(最短例は中国4,1年、最長例はアメリカ42,8年)。

フランスのフラマンヴィルで建設中のEPRは、2007年の工事開始以来トラブルが続き、稼動予定の2012年から11年延期されると見積もられている。建設費は当初の33億ユーロから190億ユーロ(約2兆4400億円)に膨くれ上がり、稼動できるかどうかもわからない(後述)。少数の例外(中国、韓国)を除いて、原発の建設は5~10年を超えるほど長い。   

原子力は気候を救わない(2)原子力産業の破綻

フランス・フラマンヴィルとフィンランド・オルキルオト原発(後者は2021年12月21日運転開始、稼働予定12年遅れて2022年3月から本格運転。建設開始は2005年)でのEPR建設の大失敗は、原子力産業の破綻を端的に表している。EPR建設中の多々のトラブルの中でも重大なのは、2015年に原子炉容器の蓋と底の部分に鋼鉄中の炭素濃度が高すぎる箇所(炭素偏折)があり、耐性の欠陥(壊れやすい)が発覚したことだ。

そして、フランス原子力安全局ASNが、この欠陥部品を作ったクルゾー社工場(旧フラマトムからアレヴァNPに、その後フランス電力EDF傘下に入り再びフラマトムに改名)の製造について過去にさかのぼる全体的・徹底的な調査をEDFとアレヴァ(後オラノに改名)に要求したところ、フラマトムと日本の鋳鍛鋼株式会社(JCFC)が生産した部品について多数の「不正」が発見されたとASNは2016年に発表した。フランスで稼働中の原子炉18基の蒸気発生器の底などにも、炭素偏折のある部品が使われていたのだ。

さらに、第三者機関による監査によって、部品テストなどの報告書に400以上の偽造(悪い結果を正常値に近づけるなど)があったことが発覚した。2016年にはノルマンディー地方パリュエル原発の2号基で、老朽化した蒸気発生器の取り替え作業中の墜落という、原発業界では「想定外」とされていた事故が起きた。こうした技術的欠陥は原子力産業の技法ノウハウの喪失を表す、と原子炉物理学者でエネルギー効率化・省エネの専門家、ベルナール・ラポンシュは憂慮する。

フランスの加圧水型原子炉PWRはすべてアメリカのウェスティングハウス社と合併したフラマトムが製造したが、稼働中最新の原子炉が1999年に完成して以後、同社は建設中のEPR以外、一基も原子炉を製造していない。製造部門にかかわらず、EDFでも原子力分野の熟練技術者の世代は引退してノウハウが失われ、現場では下請け労働者が多数、劣悪な労働条件で雇用されている。さらに、国家が筆頭株主であっても近年、原子力産業の指導陣は市場経済論理のみを優先し、技術的な知識や安全性に対する意識が大きく後退している。

  (中略)

そして、おそらくEPRの原子炉容器の構造自体に欠陥があるために、加圧水が注入される際に振動が起きて、その振動が燃料棒を破損させたらしいとのこと。さらにこの欠陥は、クルゾー工場(フラマトム)での2007-08年の模型実験でわかっていたらしい。したがって、この欠陥がタイシャン2(稼働中)、フィンランドとフランスのEPRにも共通する可能性は高い。

そこでASNは12月、EDFにタイシャン1号の事故の原因を追求し、燃料棒破損の危険がある場合はその対策を明確にせよと要求した。脱原発の市民団体と政党(緑の党、屈服しないフランス)は当然ながら、フラマンヴィルEPRの中止を求めている。

稼働中の原発でも頻繁に問題が起きている。12月16日、ASNはシヴォー原発で一次冷却水の非常冷却装置の配管に腐食・亀裂が確認されたと発表した。EDFは調査と部品交換など修復のため、同じ製造の原子炉を持つシヴォー原発2基とショー原発2基(いずれも1450メガワット=145万キロワット)の停止を決定した。稼働中の原発のうち最新の大型原子炉で、安全面で最も重要な箇所に欠陥が確認されたとは、深刻な事態だ。また、コロナ危機以来、定期検査期間延長などで停止中の原子炉が増えていたが、冬季にさらに大型原子炉4基が止まると、厳寒の際には電力が不足して他のEU国から輸入しなければならなくなる。大量に原発を建設した時代、電力消費を増やすために電気暖房の住宅も多数建設したフランスは、これまでも冬のピーク時に電力を輸入で補ってきた。「原子力によるエネルギー独立」は妄想にすぎない。

      (中略)

原子力は気候を救わない(3)良心なき科学(知識)は魂の廃墟にすぎない

老朽化が進むフランスの原発(56基中17が稼働40年超)では中小規模の事故や異常、放射能漏れや労働者の被災は(日本と同じく)頻繁に起きるが、EDFからASN原子力安全局への報告にはいつも時間がかかり、事象は必ず矮小化される。これらの原発を50年~60年稼働延長するための「大修復」には1000億ユーロ必要だとみられている。また、温暖化によってまさに、干害による水不足で近年は夏季、河川の水で冷却する複数の原発を止めざるをえない。洪水でも1999年末、ブライエ原発が大事故寸前の危険に陥った。気候変動で頻度が高まった災害に対して、原発は耐性がなく脆いのである。

こうした危険に推進派が不感症な理由の一つは、原子力は安全だ、たとえ事故が起きても大した影響はないという妄想に、いまだ囚われているからだろう。彼らはチェルノブイリや福島事故は、発達の遅れた共産国や大津波(自然災害)のせいだと片づけ、人間の過失・不完全さと複数の要素が生み出す複合的な過酷事故は制御できないという事実を否認する。そして何より彼らは、放射性物質が大量に拡散されて環境を末長く汚染し、人間や生物の健康を何世代にもわたって損なうという事実を軽視・否認している。

原子力を推進する国際的な勢力は広島・長崎への原爆投下の当初から、内部被曝の実態を隠蔽して核兵器の開発と原子力産業を発展させてきた。チェルノブイリ事故後は「公式に」子どもの甲状腺がんしか健康被害として認めず、疫学調査や研究を妨害さえして最小限に抑え、「科学的に有意な証拠がない」と主張し続けた。福島第一事故後も行政は、たとえば甲状腺の初期被曝や土壌の放射能測定などを広く体系的に行わず、最初から「風評被害」という言葉を頻発して公式な調査・データ作成の道を塞いだ。

    (中略)

つまり、原子力政策を決定・推進する国の政治・技術エリート指導者やそれに追随する人たちは(温暖化に対しても同じだが)、何か起きても自分が被害を受けることはないと思っているのだ。死んだり病気になったり、故郷から追われて苦しむ人々がいても知ったことはないと無視できるのは、被害を受ける民衆を同等の人間・市民とみなしていないからだろう。

原子力については「クリーン」という言葉も使われる。現場で働く人を被ばくさせ、想像不可能な未来永劫まで核廃棄物を残すのに、「クリーン」にも推進派の倫理の欠落が表れている。「原子力はトイレのないマンションだ」と小出裕章氏がよく言っているが、原子力政策を進めてきたエリート指導者たちは、自分でトイレの掃除やおむつの取り替え、老人・病人の世話を一度もしたことがなく、自宅の台所と床は使用人がピカピカに磨き、おそらく自分でゴミ捨てもしないのだろう。原子力に限らず、産業の発展と生産主義は権力志向の支配的男性優位主義思考のもとに行われてきた。

彼らは核のゴミをどうするか考えずに原発を増やし続け、解決できないので「核燃料サイクル(再処理)」というからくりでごまかそうとした(フランスの場合、リサイクルされる核廃棄物は1%以下)。増え続ける長期高レベル放射性廃棄物は、海底に捨てたり外国の過疎地に捨てたりもしたが、問題が意識されてきたので地中深くに埋めて「見えないから存在しない」ことにしようとしている。

原子力についてもまさに、ルネッサンスの人文主義者ラブレーの言葉「良心なき科学(知識)は魂の廃墟にすぎない」があてはまる。前述のネガワットのように「持続可能な開発のための」目標に沿った倫理にもとづいて、原子力を止めるエネルギー転換をしなければ、気候も人類も救えない。

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