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UNSCEAR2020/2021報告書に日本側はどう関与したか・完全編(後半)

前半からのつづき

前半は以下をご覧ください。
https://nimosaku.blog.ss-blog.jp/2023-02-12

 

6.パブリック・ミーティングで明らかになった問題点
6-1.東京工業大学(2022年7月19日開催)

筆者は放射線の専門家を対象として東京工業大学で開催されたパブリック・ミーティングに遠隔で参加し、質問を投げかけた。「原発事故当時の出荷制限がかかる3月26日までは、住民が自家栽培や市場に流通していた放射能で汚染された野菜や牛乳を摂取しているが、その内部被ばくを無視しているのではないかと」の質問に対し、UNSCEARの執筆者の一人であるバロノフ氏の回答は「インパクトは低い」と何の科学的根拠も示さず一方的な回答であった。

6-2.いわき市(2022年7月21日開催)
一般市民を対象としたもので、事前予約が必要だった。しかし参加者を公募したのは開催日の5日前からで、非常に閉鎖的な運営であった。開催日といわき市で開催すると言う情報は、同年2月にはUNSCEARの事務局長からのメールで知っていた。しかし開催が近づいても開催の詳細が告知されない。UNSCEARにメールしても回答は無い。いわき市の県会議員や市会議員、そしていわき市に確認したりして、ようやく開催場所を開催5日前に知る事が出来た。筆者からは事前質問を提出していたが、市民や専門家等から多くの質問や疑問が出された為に、時間切れとなってしまい、筆者からの質問はできなかった。

その概要が以下。
2時間のうち予定を超過し1時間以上も内容の無いUNSCEARからの説明に終始。
②多くの間違いの指摘や質問が科学者や市民から出されたが、納得いく回答は得られなかった。
バロノフ氏が、日本人の甲状腺への取り込み率を1/にしたのは鈴木氏の提言を採用したと暴露

④多くの質問や疑念が噴出し、十分で納得いく議論ができなかった為に、時間延長や午後の意見交換会を要求したが、次の予定(注10)があるとして終了。

注10:UNSCEARに住民データを提供した南相馬市と楢葉町に御礼挨拶に行った。

7.メデイアのUNSCEAR批判
7月21日にいわき市で開催されたパブリック・ミーティングや福島県庁でUNSCEAR2020/21レポート検証ネットワーク記者会見[i]等をきっかけに、NHKや東京新聞、朝日新聞や産経新聞、福島民報、そして地元月刊誌・政経東北批判報道し始めたUNSCEAR報告書を再検証すべきとの世論形成に影響力を与えた

1)NHK[ii]
『国内の研究者らで作るグループが報告書の検証結果を発表し、甲状腺被ばくの原因となる放射性物質のヨウ素131が、原発事故の発生直後、大気中にどれだけ存在したか試算した部分で、元となった論文のデータを誤って引用し、被ばく量を少なく評価しているなどと指摘しました』、『グループ側は結論の撤回を求めています』と報道した。 
NHKの批判報道は今までのUNSCEAR報告書は正しいものとしていた県民や市民にとっては、大きな影響力を伴う画期的な報道であった。
UNSCEARの主張も同時に報道)   

2)東京新聞[iii]

『誤ったグラフやデータが複数ある。論文引用の誤りで被ばく線量の過小評価をしている。 科学的な報告書とは程遠い』との研究者グループの批判をUNSCEAR主張と併記した。

   
3)産経新聞[iv] 
『風評は科学を凌駕する』といった記事を7回連載で掲載。第1回目の記事はいわき市でのパブリック・ミーティングを取り上げた。
 その記事の中で、参加した市民や学者からの意見を取り上げ、『
UNSCEARが20年報告書作成にあたり、日本から7000万円の資金が提供された為「被ばく影響を小さく見せようとする意図がある」という声もくすぶる』、『UNSCEARがいう独立は被害者から独立し、政府側に立つことか』、

UNSCEARの報告書は一般市民には議論する機会が与えられなかった』、『20年報告の結論撤回を求める緊急声明やハースらを追及する質問の事例集も並び』、『沈着速度が3桁間違って表記されている』、『であればUNSCEARは20年報告で被爆量の推定値を過小評価していることになる』、『会場からは反発の声が上がった』といった記事も、鈴木元氏の意味不明のコメントと共に併記した。

4)朝日新聞[v]
 『被ばく影響割れる見解』と、両論併記の記事を10月6日に国内研究者たちの批判記事を以下のように報じた。

①本行忠志大阪大名誉教授
・「被ばくに関する様々な要因に対し、推定しうる最小値かそれ以下の値を採用して、大幅な過小評価をしている」と批判。
・被ばく線量の引き下げにつながった「昆布効果」問題の裏付けデータ が55年前にわずか15人を調べたもので「全く参考にならない」。
・直近の日本人のヨウ素摂取量は世界標準と比べて多いと言えず、評価は事実に基づいていない。
・避難中の食品による被曝も、事故直後は汚染された野菜などが市場に出回っていたことが明らかになっており、 「不確実なものには最大値を採用する予防原則にも逆行する」と指摘。

②津田敏秀岡山大教授:
 ・がん多発の原因とされた過剰診断説についても「科学的に検証されていない」
③種市靖行医師:
・過剰診断を防ぐため、甲状腺がんの腫瘍の大きさについては厳格な基準に基づいて検査。5ミリ以下の結節を精査していず、命を脅かさない小さながんを見つけている過剰診断にはあたらない。
・高感度機器でがんの詳細な形態がわかり、手術に至る症例が減っている。「高感度機器は過剰診断を防いでおり、報告書は逆のことを言っている」

8.UNSCEARが非科学的である5つの理由
 
UNSCEARが如何に非科学的で、開かれていない組織であるかについて、別の視点から纏めてみた。これ以外にも多くの非科学的で、政治的な疑念や問題がある事は既に述べた。

1)UNSCEAR報告書を第三者がチェックする機能がない。
  
チェックの欠如が間違いや捏造等多くの問題を発生
  ・日本作業グループが執筆者に提供した論文では結論が歪められている。

2)UNSCEAR報告書は中身とプレスリリースの結論が不一致。
  ・本文内容と結論の一致は自然科学論文における最低限のマナー
3)日本国内対応委員会とUNSCEAR間との文書開示を拒否。
  
国際機関との信頼関係が損なわれると開示請求を却下。
  ・異議申し立ても、規制庁からUNSCEARに照会したが開示は望ましくないとの回答で、不開示は妥当との最終返事。
4)他の研究者が検証不可能な福島医大論文を多数採用。
  
福島医大以外の研究者は県民健康調査のデータ利用不可の為福島医大の論文の再現は不可能。
  ・他の研究者による再現できない論文は科学論文とは言えない。

5)公開質問やパブリック・ミーティングでの間違いの指摘を修正も公開もしない。
・都合の悪い質問は無視するか、直接は答えない。
・公開質問のQAHPに掲載するよう要求しても、未だに公開されていない。 

9.UNSCESRへの公開質問
日本作業グループの疑念を確認する為、2021年9月下旬、著者は以下の質問を提出した。                                                    「日本作業グループは2020/2021報告書の執筆はしていないとしているが、詳細分析には日本作業グループが強く関与しているので、都合のよい論文やデータを恣意的に選択して結論を誘導していないか?
また、明石氏は鈴木氏との私的なつながり(共同論文多数)があり、鈴木氏の論文を優先的に採用した事実が無いかを検証すべきだが、UNSCEARとしての見解をお聞かせください。」

 
この質問に対し、3週間後にUNSCEARから回答があったが、日本作業グループのミッションを述べるだけの以下のような回答で、その疑念に具体的に答えるものではなかった。 しかし日本作業グループは報告書草案に対する技術コメントを提供する事が明らかとなり、その関与が大きい事は明らかである。明石氏は日本国内の国内対応委員会の委員とUNSCEAR内部の日本作業グループ、そして最終調整の調整専門家グループの3つの立場を利用し、大きく関与していた事が明らかとなった。

筆者の質問に対するUNSCERAの回答の一部が以下。(一部省略)
a.関連する科学的および技術的出版物と研究計画を特定する。
b
.委員会および専門家グループによる文献要求に対応する。
c.報告書草案に関する技術的コメントを委員会に提供する。

10.UNSCEARへの公開質問から見えてきたもの
 UNSCEARが採用した避難区域住民の40の避難シナリオ
(各市町村住民の代表的な避難経路によって住民の被ばく値を推定)には、避難が遅れたり、避難が困難な住民が3月15日、16日の大量のプルームの吸入摂取による内部被ばくを無視している。一時避難先で、炊き出しに出された高濃度に汚染された露地野菜を食べたり(注5②)、出荷制限前の3月23日まで市場に出回っていた野菜を食べたりした住民が考慮されていない等、多くの疑問・疑念がある。[vi]

そこで2021年9月下旬、UNSCEARに20項目以上の『公開質問』を提出した結果、3週間後に回答が届いた。しかし一部の質問以外は項目ごとの質問には答えず、2021年12月に発行予定(実際は2022年3~5月に発行)のアタッチメントを読めというもので、直接の回答は得られなかった。
 
しかし、予定よりも3か月以上遅れて、2022年3月~5月に発行されたアタッチメントには、公開質問への答えは含まれていなかった。UNSCEARは都合の悪い質問を無視する非科学的な組織である事が明確となった。公開質問のQAHPに掲載するよう何度となく要求したが、未だに公開されていない。

11.UNSCEARの公正・中立性への疑念
 
同時に公開質問した20項目の公開質問[vii]のうち、UNSCEARの公正・中立性に関する質問には、3週間後に回答が届いた。筆者からのUNSCEARへの質問は以下のようなものであった。

「中立性についてUNSCEARの見解をお聞かせください。 UNSCEARの内情をよく知る元WHO放射線・公衆衛生顧問キース・ベーヴァーストックが2014年11月に来日し、日本外国人特派員協会での記者会見スピーチ要旨が以下。『委員のほとんどは、経済的重要性の高い原子力推進プログラムを持つ各国政府の指名制で、これらの政府はまたUNSCEARに資金も提供している。原子力産業ロビーに批判的な声をあげてきた研究者でUNSCEAR報告書の作成に関与している人はいない』」

上記の質問に対するUNSCEARからの回答の一部は『12の加盟国とオブザーバからの30人以上の国際的な専門家が取り組み、13人の批評的査読者が報告書をレビューした。さらに、200人以上の参加者が参加した第67回委員会が報告書を検討し採択した。』と言うものであった。
その回答はUNSCEARの公正・中立性を一般論として説明しているものの、決定プロセス等個々の問題点や疑問点に関しては、具体的説明には触れていなかった。

おわりに
UNSCEAR2020/2021報告書は、主に旧放医研を主体とした日本側の意図的な意思によって、特に内部被ばく線量を捏造・矮小化され、甲状腺がんの放射能の影響が隠されてしまった。人権侵害を監視する国連機関自らが、人権侵害するという事は許容される事では無い。

今後は継続的に科学的な検証結果をメディア等と共有していく事が課題であろう。メディアには公正・中立で、しかもジャーナリストとしての検証した結果の正しい報道を期待したい。歪曲したUNSCEAR報告書や、メディアの間違った報道、そして県民健康調査検討委員会の報告書等が甲状腺がん患者を苦しめている。国や県、メディアは甲状腺がん患者一人ひとりに向き会うべきであろう。

今後はメディアや県民健康調査委員会、甲状腺評価部会のメンバー、そして環境省や規制庁等へ正しい科学的情報を提示し、間違った認識を変えてもらう事が重要である。隠された真実を究明・検証し、次世代に真実をつないでいく事が我々の責務であろう。



[vi]「福島甲状腺がん多発~UNSCEAR2020レポート批判~」 福島原発事故による甲状腺被ばく真相を明らかにする会 発行 P78P80
又は 前半: https://nimosaku.blog.ss-blog.jp/2021-09-19

[vii] 「福島甲状腺がん多発~UNSCEAR2020レポート批判~」 福島原発事故による甲状腺被ばく真相を明らかにする会 発行 P76P94

  又は 前半: https://nimosaku.blog.ss-blog.jp/2021-09-19
後半:https://nimosaku.blog.ss-blog.jp/2021-09-20

 


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